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はじめに
犬のアレルギーによる皮膚トラブルには、いろいろな原因が考えられます。食物の成分が原因となる食物アレルギーや、ノミが原因のノミアレルギーなどがあり、そのなかでも代表的な皮膚トラブルとしてアトピー性皮膚炎が挙げられます。
もし愛犬が、「いつも体をかゆがっている」「皮膚炎を何度も繰り返す」「季節によってひどくなることがある」などの症状がみられたら、アトピー性皮膚炎の可能性があります。
アトピー性皮膚炎は慢性的な皮膚疾患のため、かゆみが継続するので、長期的にさまざまな治療が必要となります。
そのためにも、飼い主さんは正しい知識を持ち、愛犬のつらさを軽減してあげなければなりません。
今回は、アトピー性皮膚炎のおもな症状や、原因について解説するとともに、発症した場合の対処法や適切なフードの選び方に関してもくわしくご紹介いたします。
犬のアトピー性皮膚炎の症状は?
犬のアトピー性皮膚炎の症状は、人間のアトピー性皮膚炎と大きくは変わりません。
おもに、しつこいかゆみにより、患部を掻き壊すほか、噛んだり舐めたりすることで炎症や脱毛、フケの増加や色素沈着が生じてきます。
症状が出やすい部位として、わきの下、下腹部、目や口周り、耳などにかゆみが出ることが多く、これらの部位に炎症などがみられるようになります。
また、耳に関しては、外耳炎を併発することがあり、頭を頻繁に振ったり、首を掻いたりする仕草がみられたときには、アトピー性皮膚炎の疑いがあります。
症状は1年を通して続きますが、季節によって症状が悪化してしまう場合があり、その原因はアトピーの原因物質が関係しています。
花粉が原因なら春先に、カビが原因であれば梅雨の頃にかけて、より強い症状が出ることがあります。
もうひとつアトピー性皮膚炎の特徴として、最初に症状が出るのは、3歳以下の若い犬であることがほとんどです。
そのため、中高齢の犬で、アトピーを疑うような症状が出ても、ほかの皮膚疾患の可能性が高いので、注意が必要です。
犬のアトピー性皮膚炎のよくある原因
犬のアトピー性皮膚炎を引き起こす理由は1つではなく、さまざまな要因が重なることによって発症します。
以下にご紹介する原因として考えられるものが1つでも欠けていれば、アトピーを発症することはありません。
ただし、原因のどれもが完全に解決することが困難であるため、治療も難しくなっています。
アトピー性皮膚炎を引き起こすと考えられる4つの原因について、解説いたします。
アレルギー体質
アレルギーは体内に侵入したアレルゲン(原因物質)に対して、異常な反応を示すことで発症しますが、これは遺伝的なアレルギー体質によるものが多く、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなります。
皮膚のバリア機能が弱い
有害物質が体内に侵入するのを防ぎ、体内の水分の蒸発を防ぐ機能を「バリア機能」といいます。
健康な犬は、このバリア機能によってアレルゲンが侵入することはありませんが、アレルギー体質の犬の場合には、バリア機能が弱く、皮膚が乾燥しやすくなるためアレルゲンの侵入を容易に許してしまいます。
そのため、外部の刺激から体を守れずに、アレルギー症状を引き起こしてしまいます。
犬種
アトピー性皮膚炎は遺伝的要因によるものが多く、犬種によって発症しやすいことがわかっています。
アトピー性皮膚炎を発症しやすいといわれている犬種は以下のとおりです。
- 柴犬
- シーズー
- ウェストハイランド・ホワイトテリア
- ラブラドール・レトリバー
- ゴールデン・レトリバー
- フレンチ・ブルドック
- ビーグルなど
これらの犬種は、日本でアトピー性皮膚炎を多く発症している犬種とされています。
ただし、上記の犬種以外にも、アレルギー体質でさまざまな要因が重なれば、他の犬種でも発症する可能性があります。
ダニや花粉
生活している環境のなかに、なんらかのアレルゲンが存在して、アレルギー体質の犬の体内に侵入することでアトピー性皮膚炎は発症します。
アレルゲンはダニ(ハウスダストマイト)、花粉、カビなど多岐に渡り、特にダニはアトピー性皮膚炎に大きく関わっているといわれています。
ダニを完全に駆除することや、散歩などで花粉を一切付着させないことなどは不可能に近いため、アレルゲンの完全除去は難しいのが現状ですが、極力減らすことで発症を防ぐことができるかもしれません。
犬のアトピー性皮膚炎の対処法
アトピー性皮膚炎は、体質的な要因が関係するため、根本的な治療で完治が難しいので、愛犬がかゆみで苦しまずに、日常生活を送ることができるよう症状を緩和させるための管理をおこなう必要があります。
飼い主さんが日々の生活のなかでできるアトピー性皮膚炎対策は、アレルギーの要因をできる限り除去することです。
代表的なものをみていきましょう。
掃除や洗濯でアレルゲンを減らす
もし愛犬の皮膚が弱く、アレルギー体質だとしても、アレルギーを引き起こすアレルゲンがなければアトピー性皮膚炎は発症しません。
とはいえ、日常の生活で、ダニや花粉、カビ類など目に見えないものを完全に除去することはできません。
ダニなどが原因ならば、こまめな掃除をおこない、カビには湿気対策のための換気、花粉には空気清浄機を利用するなどして、生活環境をできる限り清潔に保つことで症状の悪化を防ぐための予防につながります。
薬で炎症を抑える
アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみを抑えるためには、投薬治療をおこなうことが一般的です。
その際には、副作用の少ないアポキル錠という治療薬がおもに処方されます。
アポキル錠はアトピー性皮膚炎のかゆみを緩和し、掻きむしりや皮膚の荒れ、出血などを防ぐ効果が期待でき、副作用も少ないため、1年以内であれば長期間の服用も可能となっています。
アポキル錠が効かない場合には、別の内服薬を使用することもあるので、医師と相談のうえ愛犬に適した薬を処方してもらいましょう。
かゆみが強い場合には、内服薬のほかに、症状が出ている部分にだけ、外用薬のステロイドを使用します。ダメージを受けた皮膚にとってステロイドは効果的でかゆみを抑えることができますが、副作用が出やすいため、長期間の使用には向いていません。
この場合には、シクロスポリンなどの免疫抑制剤が使用されますが、ステロイドに比べて高価な薬のため、月の薬代が数万円になることがあります。
シャンプーや保湿剤でスキンケア
シャンプーや保湿剤によるスキンケアは、アレルゲンをしっかりと洗い流し、乾燥から肌を守るためにとても重要な役割を果たします。
スキンケアを定期的におこなうことで、アレルゲンを除去する洗浄効果や、保湿効果、皮膚バリアの機能の修復を助け、正常な状態に近づけるなどの効果が期待できます。
また、シャンプーや保湿剤選びも大切ですが、そのやり方も正しくおこなわないと、かえって皮膚を傷める原因にもなります。
シャンプーの手順は以下を参考にしてください。
- シャンプー前に皮膚を刺激しないよう注意しながら、ブラッシングで毛玉などをほぐします。
- ぬるま湯で、体全体を湿らせてください。このときに高温のお湯や、強い水圧は避けてください。
- ぬるま湯で薄めたシャンプーを体全体に広げながら洗います。この際に、爪などを立てず、強くなりすぎないようにしましょう。アトピー性皮膚炎が出やすい脇や下腹部、足などは特に入念に洗い、10分程度シャンプーを馴染ませていきます。
- ぬるま湯でしっかりとシャンプーを落としてから、コンディショナーで保湿します。コンディショナーを適度になじませたら、シャンプー同様に洗い流します。
- タオルでしっかりと水分を拭き取ります。このときあまり強くこすらずに軽めに皮膚に当てて拭いてあげましょう。水分をよく拭き取ったらブラッシングをしながらドライヤーで乾かします。
ドライヤーは高温で、炎症を起こしている皮膚には刺激が強すぎるので、体から離して使用してください。必要に応じて、保湿剤もたっぷりと塗ってあげましょう。
この手順で、週1回程度の頻度でシャンプーをおこなってください。
アレルギー対策フードやサプリメントを摂取
食生活の改善もアレルギー対策としてたいへん重要です。特定の食物でアレルギーを引き起こす食物アレルギーはアトピー性皮膚炎と併発することも多く、症状を悪化させないためにも食生活の見直しが必要となります。
皮膚疾患や、食物アレルギーに対応したアレルギー対策フードやサプリメントが販売されているので、これまでのフードと切り替えてみると症状に変化がみられるようになります。
ただし、自己判断はせずに、まずは動物病院を受診して、獣医師の適切なアドバイスのもとでフードを選びましょう。
犬のアトピーを防ぐドッグフードの選び方
実際に、アトピー対策のためのフード選びをおこなう際に、確認しておきたいポイントについて解説いたします。
アレルゲンが含まれていない
アレルギーを防ぐためには、できる限り体内にアレルゲンを取り込まないことが重要です。しかし、アレルゲンが特定されていない場合には、どのフードを選べばよいのか判断が難しくなります。
そのため、フードのパッケージで配合食材を確認するために、原材料表記をチェックしますが、その際にはできるだけ配合食材の少ない、シンプルな原材料で作られているフードを選びましょう。
もし、愛犬にアレルギー反応が出たときにも、アレルゲンの特定がすぐにできることや、肉や魚の主原料がシンプルに1種類だと、別の食材に変更してアレルギー反応が出るのか確認しやすくなります。
最終的に食物によるアレルギーで、アレルゲンも判明すればその食材を口にしなければ発症のリスクを大きく下げることができます。
良質なタンパク質や油が使用されている
良質なタンパク質を摂取することは、消化を助け、健康な腸内環境の維持につながります。腸内環境が良好だと、皮膚疾患やアレルギーを起こしにくい体づくりに役立ちます。
低品質なタンパク質の摂取は、食物アレルギーの発症原因になることもあるほか、栄養面でも味の面でも良質なものと比べると落ちてしまうものがほとんどです。
特に主原料となる肉や魚などの動物性タンパク質は、「鶏肉」など何の肉なのか表記を見てすぐにわかるものを選び、「〇〇ミール」などの判断しづらいものは避けましょう。
ドッグフードに含まれる油も良質な油を摂取することが大切で、低品質の油を使用しているフードを食べ続けると、消化器への負担が増し、皮膚や被毛のトラブルの原因となることがあります。
特に、アトピー性皮膚炎やアレルギーから愛犬を守る「オメガ3脂肪酸」が入っているかは重要なポイントです。
また、オメガ3脂肪酸は、オメガ6脂肪酸と併せて摂取することで効果を発揮するので、パッケージ表記に「オメガ3脂肪酸」と「オメガ6脂肪酸」の両方が含まれているものを選びましょう。
腸内ケア成分が配合されている
腸にはたくさんの免疫細胞が存在しているため、良好な消化吸収や排泄には、腸内の健康維持は欠かせません。
タンパク質が消化されないことでアレルギーを引き起こすこともあり、免疫力が下がってしまいアトピー以外にもさまざまな病気にかかりやすくなってしまいます。
そのため、腸内環境を整えてくれる腸内ケア成分がフードに含まれているものを選ぶことをおすすめします。
原材料表記に「オリゴ糖」「乳酸菌」などの腸内ケア成分が含まれているものを選ぶようにしましょう。
人工添加物が含まれていない
愛犬のアトピー対策には、人工添加物の含まれていないフードを選んでください。配合量としては害がない量で配合されてはいますが、継続的な摂取による体への負担を避けるためにも、着色料や甘味料などを含んでいるフードは避けるようにした方がよいでしょう。
アトピー対策としてフードを選ぶ場合には、保存性や管理のしやすさのために添加物を使用しているフードよりも、消化しやすい点にこだわったフードを選ぶようにしてください。
犬のアトピーに関するよくある質問
犬のアトピーで飼い主さんがどうしても気になる部分としては、食事や皮膚のケアに関係する疑問が多くなると思います。
ここでは実際に愛犬が、アトピーになってしまっている飼い主さんの多くが抱えている疑問にお答えします。
犬のアトピー対策で食事を手作りしてもよい?
市販されているフードがありすぎて、どれにしたらよいか悩んだ末に手作りフードを与えてみようと考える飼い主さんもいると思います。
このような飼い主さんの疑問として、「そもそも手作りして大丈夫?」「手作りフードのポイントは?」といった疑問にお答えします。
手作りしても大丈夫
アトピー対策に、手作りフードを与えることは問題ありません。
原材料から飼い主さんがチェックしながら自分で手作りすれば、不要なものが入らない健康的なフードを与えることができます。
アレルゲンを含まない安全な食事を毎日摂取していれば、アトピーの症状が出にくくなり、症状の緩和が期待できます。
注意点として、市販のフードに比べ、手作りフードは保存期間が短くなることが多いため、古いものを与えてしまわないよう、鮮度が保てる量で作るようにしてください。
食事を手作りするときのポイントは?
愛犬の食事を手作りする際のポイントは、皮膚のバリア機能を向上させる「ビタミンB群」を含むものや、免疫力向上のための「発酵食品」「オリゴ糖」「食物繊維」「乳酸菌」などを含むもの、皮膚の炎症を抑える「オメガ3脂肪酸」を含む材料などを選ぶことが大切なポイントです。
ビタミンB群はナイアシン(鶏ささみ、マグロなど)パントテン酸(鶏ささみ、鶏レバーなど)コリン(大豆、卵黄など)ヒスチジン(マグロ、カツオなど)の4つで構成されており、これらを含んだ食材を使用するとよいでしょう。
免疫機能に役立つものとしては、味のついていないヨーグルトやチーズ、バナナやさつまいもが有効です。乳酸菌の摂取にはサプリメントを活用する方法もあります。
オメガ3脂肪酸を含む食品としてはマグロやサンマ、イワシなどの魚類や、エゴマ油、亜麻仁油などが挙げられます。
これらすべてをいきなり手作りで完璧に与えようとすると、飼い主さんの負担も大きくなるので、市販のアレルギー対策用フードも使用しながら徐々に手作りを増やしていくことをおすすめします。
犬のアトピー対策でシャンプーするときの頻度は?
皮膚を清潔に保つためのシャンプーについての疑問として、頻度や成分などについて疑問を持たれている飼い主さんが多いようです。
1週間に1回程度が目安
アトピーを発症している場合のシャンプーの頻度は、週に1回を目安としてください。通常、犬のシャンプーは月に1、2回程度ですが、アトピーを発症している場合には、体に付着している表面のアレルゲンや皮脂などをこまめに取り除くためにも、週に1回はシャンプーした方がよいでしょう。
シャンプーの成分に注意
シャンプーをするにあたって、どのようなシャンプーでも良いわけではありません。炎症を起こしている皮膚を悪化させないためにも、低刺激なものを選ぶようにしてください。
心配な場合には、獣医師に相談してからシャンプーを選んであげてください。
シャンプー後はしっかり保湿
シャンプー後は、タオルで丁寧に拭き取り、ドライヤーを使用する場合にも、皮膚を傷めないよう短い時間で、少し離して乾かすようにしてください。
また、乾燥したままにしておくと、かゆみが増して、掻きむしることでさらに症状を悪化させてしまうので、保湿剤を少し多いと感じるくらい塗ってあげてください。
保湿剤の種類に関しては症状により異なる場合があるので、獣医師に相談のうえ適切なものを使用してください。
まとめ
犬のアトピー性皮膚炎は、遺伝や体質によるところが大きく、飼い主さんが気を付けていても発症してしまうことがあります。
完治することが難しい病気ですが、適切なケアで症状を緩和させることは十分に可能です。
発症した愛犬が、かゆみや痛みで苦しんでいる姿はできれば見たくないのが飼い主さんの心情でしょう。
大切な愛犬を苦しみから守るためにも、今回ご紹介した対処法を参考にしていただけると幸いです。