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はじめに
あなたは「介助犬」をご存じですか。
身体の不自由な人のために、日常生活を助けてくれる犬を介助犬といいます。
約70年の歴史のある盲導犬に比べ、介助犬の歴史は約30年と歴史も浅く、頭数も非常に少なく足りていないのが現状です。
本記事では介助犬とは何か、介助犬がどのように誕生しユーザーとどのような関係性を築いているのかなどを詳しくご紹介します
介助犬とは
介助犬は、手や足に障がいがある人の日常生活をサポートするために専門的な訓練を受けた犬のことです。落とした物を拾ったり、指示された物をもってきたり、緊急時には人を呼びに行ったりします。日常動作の補助もし、車椅子を近くに寄せたり歩行の介助をしたりできます。
介助犬はユーザーをサポートし、ユーザーは可能な限り介助犬の世話を自分で行うことで、お互いに支えながら日々の生活を送っていきます。
実働している介助犬は現在58頭と非常に少なく、盲導犬に比べると認知度も低いのが現状です。
介助犬を育てる訓練士が足りず育成が追いついていないこと、寄付が集まりにくいことなどが原因といえます。認知度の向上とトレーナーの育成が課題です。
主な仕事内容
介助犬は、身体の不自由な人のために、身体的なサポートができる特別な犬になるため訓練されます。パピーファミリーから離れ、約1年かけ色々なトレーニングをうけて成長し、介助犬へとなります。
落ちたものを拾う
手に障がいがある人は握力がないことも少なくありません。
たとえ握力があったとしても、細かいものを掴むことが難しい場合もあるため、介助犬は落としたものを拾って渡すという動作ができるように訓練されています。小さな小銭やカード類なども口でくわえて拾いユーザーに渡します。
その場合、落ちた物をすぐ拾うのではなく「ユーザーに指示を出されてから」が鉄則です。
ユーザーが落ちたことに気づいていない場合、介助犬が急に動くとリードが引っ張られ危険だからです。
指示したものを持ってくる
介助犬は必要な物を伝えるとその場所まで持ってきてくれます。
例えば、「飲み物をとってきて」と指示された介助犬は、冷蔵庫に行きドアを開け、中からペットボトルを取りドアを締めます。そしてユーザーの手元までもっていきます。
物を取りにいくという日常生活も、身体の不自由な方にはとても大変です。
介助犬がいることでそのサポートができ、たとえ何かが起こった時も電話を持ってくるよう指示することによって緊急連絡手段の確保ができます。
脱衣の介助
身体が不自由だと服を脱ぐにも手伝いが必要となるため、介助犬は脱衣の介助ができるよう訓練されています。
介助犬は靴を脱がしてくれたり、靴下を踵の部分を前歯で優しくつまみ脱がしてくれたりする器用さがあります。ユーザーが一人では難しいことを介助犬が手助けすることによって、他の人に頼らず生活できることが増えていきます。
その他
介助犬は不測の事態が起きた時に人を呼びに行ったり、緊急ボタンをおしてくれたりする緊急対応もできる他、ドアの開閉などもできるように訓練されています。
また、歩行や移動の支えもしっかり足を踏ん張り嫌がることなく支えてくれます。
介助犬の犬種
現在実働している介助犬で最も多い犬種はラブラドールレトリバーです。このほかにゴールデンレトリバーも活躍しています。
従順な性格でおとなしく、作業犬として優れた性質を持っているため介助犬として繁殖される理由です。介助犬に適している性格として、他の動物に強い興味を示さず、挑発的な行動をしないこと。大きな音や環境の変化に神経質ではないことなどが挙げられます。
このほかに、ものを拾ったり持ってきたりする介助は口でおこなうため、ある程度の大きさが必要となります。歩行や移動の支えになる時もあるため、しっかり足を踏ん張り支えてくれます。そのため小型犬だと難しいことから大型犬が選ばれている理由です。
介助犬の一生
介助犬の一生は、介助犬に向いているゴールデンレトリバーなどの繁殖犬の確保から始まります。
その後介助犬として一人前になるための道を進んでいきます。
パピーファミリーとの生活
生後2ヶ月ごろまで母犬や兄弟たちと生活した子犬は、その後パピーファミリーと呼ばれるボランティアの家で1歳になるまでの約10ヶ月間生活します。
パピーファミリーは室内飼育ができたり、あまり留守をしない家庭であったり、家族全員が飼育に協力しなくてはいけないという決まりがあります。
また、協会主催のしつけ教室に、車で参加できることも条件とされており、これらの条件をクリアできない場合はパピーファミリーになることはできません。
パピーファミリーと過ごす10ヶ月の間で愛情をたくさん注いでもらい、人に対する信頼感を育みます。愛情のある温かい家庭での暮らしの中で、愛される喜びを覚え、社会で生活するマナーを身につけます。
適正評価
1歳になるとパピーファミリーと別れ、訓練センターに入所します。その後介助犬としての適性を判断される適正評価をおこないます。
判断基準として、人によく注意を払うか、作業意欲はあるか、落ち着いているか、色々な場所や動物への順応性はあるかなど、介助犬として必要な資質がみられます。
ここで介助犬として向かないと判断された場合は訓練には進まず、一般家庭としてペットとして暮らすようになるのです。
訓練
介助犬としての適性があると判断された候補犬はその後訓練へと移ります。
介助犬の指示に英語の単語が使われる理由は、日本語より短く簡単な単語が多く、犬が理解しやすいためです。
日本語でも簡単な単語はありますが、命令後の厳しい口調になってしまうので用いられていません。
基本訓練の「座る、伏せ、待て」からはじまり、色々なものを口でくわえて持ってくる、ユーザーに渡すなどの介助動作もここで訓練されます。無理なく自然に仕事がこなせるようにトレーニングし、上手にできた時にはタイミングよく褒めることによって、犬自身が自信を持って作業できるようになるのです。
訓練中は3ヶ月ごとに適正評価を行います。介助犬の適正や訓練の進行状況を確認し、ユーザー候補も選定していくのです。
どのような作業ができるのかを見定める
候補犬がどのような作業ができるのかを見定め、その作業を必要としているユーザーを選びます。その後相性などをみるマッチングを行います。
ユーザーが決まると生活状況や身体的な特徴を考慮しながら、ユーザーのニーズにあった作業内容を候補犬に訓練していきます。
その訓練に加え、人とのコミュニケーション力も育てていかなくてはいけません。
介助犬にサポートをお願いしたいユーザーは、犬とのスキンシップに制限があったり、タイミングよく介助犬に指示を出すことが難しかったりする場合があります。
そのため候補犬にはこのタイミングで「察する力」をつけてもらうよう日々接していくのです。
合同訓練
ここで候補犬とユーザーの両方の訓練が始まります。
ユーザーは初め、訓練センターに宿泊しながら候補犬への指示の出し方や、介助犬の飼育管理、散歩などを学びます。そして、自分でやることが難しいシャンプーや排泄処理などがある場合には、他の人へ援助してもらうための依頼方法を学びます。
それに加えて並行して候補犬との信頼関係も作っていかなくてはいけません。
食事をユーザーが自分で与えられない場合、周囲の人に用意してもらいます。
そしてユーザーが食べてOKの指示を出すことによって、候補犬はユーザーから食事をもらえていると理解してくれるのです。
候補犬とコミュニケーションをとるため遊ぶことも大変重要です。
しかし、ユーザーの中にはボールを遠くまで投げられない方もいることでしょう。
その場合、他の人にボールを投げてもらい、候補犬はとってきたボールをユーザーの膝の上におくという流れを作ることで、候補犬はユーザーと遊んでいる気持ちになれます。
候補犬は訓練によって共感力を身につけています。
ユーザーの方にもその犬特有の仕草や癖などを観察して理解してもらえるようにすることは信頼関係を築く上でとても大切なことです。
認定試験
合同訓練後に実技と面接の認定試験を受け、合格すればユーザーと介助犬としての生活が始まります。実技試験は受験者の身体的、心理的負担を軽減するため、自宅や自宅周辺などの日常生活をしている環境で行われリラックスした状態で取り組めます。
最初は初めてのこともありユーザーも介助犬も戸惑うこともありますが、色々なことを経験し少しずつ信頼関係を築いていきます。
何歳から介助犬になれる?
1歳までパピーファミリーと暮らし、その後訓練センターに入所し訓練を始める候補犬は、その後1年間はトレーナーから介助犬になるための訓練を受けます。
その訓練は、スーパーや飲食店、電車やバスなど訓練センター以外の場所の環境も色々体験し、2歳で認定試験を受け介助犬へとなります。
介助犬として活動できるのは2歳から10歳の約8年間です。
介助犬に引退はある?
約2歳で介助犬になった犬は10歳をすぎると介助犬を引退します。
引退後は、ユーザーが引き続き飼育する場合や子犬の頃に育ててもらった元パピーファミリーの家庭、一般の家庭、介助ボランティアの元で元気に楽しく余生を送ります。
元気なうちに引退し、一般家庭の新しい環境でリラックスできる時間を提供されるのです。
引退した介助犬はごく一般的な犬と何も変わりません。
介助犬が一人前になるまでにかかる費用
候補犬が介助犬になるまでかかる費用は一頭あたり250~300万円といわれています。
この費用は、候補犬のパピーファミリーでの生活から始まり、1年以上にわたる訓練、適正評価、合同訓練、認定試験までを含みます。
訓練士の不足も課題となる中、会費や寄付などが財源となっており、現状では介助犬の数は限られているのです。認知度もまだ低いため、社会全体での理解と支援が求められています。
街で介助犬に出会ったら
犬が「介助犬」と書かれたケープをつけている時は介助犬としての仕事中です。
見守ることを大前提とし、急に声をかけたりするのはやめましょう。
また、愛犬と挨拶させたりしようと近づけたりする行為は絶対にしてはいけません。できる限り距離をおいて、愛犬が吠えたりしないように気をつけてください。
仕事中の介助犬の気が散るということは事故の原因にもなる危険なことです。
あなたの行動が介助犬とユーザーを危険な目に遭わせることになるかもしれないということを覚えておいてください。
介助犬に触らない
街で介助犬に出会ったら、触らず配慮が求められます。
介助犬は仕事中であり、撫でたりハーネスを触ったり話しかけたりすると注意力が散漫になり、障がいのある方をサポートできなくなる可能性があるからです。また、介助犬を見つめすぎることも気が散る原因となるのでやめましょう。もちろん危害を加えることもあってはならないことです。
写真を取らない
介助犬が可愛いからといって、無断で写真を撮ったりSNSに上げたりすることは大変失礼な行為にあたります。
犬の気を引かないようにと遠くから撮ったとしても勝手に撮影するのはマナー違反です。
食べ物をあげない
介助犬はしっかり健康管理がされています。
食べ物も毎日決められた時間に決められたフードだけを食べるため、食べなれていない物を与えてしまうとお腹を壊す原因になってしまいます。
介助犬は、音や食べ物、他の動物など様々な刺激や関心の対象を屋内、屋外問わず無視できるよう訓練されています。しかし気が散る原因になることに違いはありません。しつけや健康管理の上でも、食べ物を勝手にあげることはしないようにしましょう。
まとめ
現在、介助犬の数は限られており認知度の向上とトレーナーの育成が課題となっています。
介助犬はユーザーのサポートをし、ユーザーは可能な限り介助犬の世話をします。
介助犬を通して行動範囲が広がり、人との会話が増えるなど、社会との繋がりが生まれることも介助犬のメリットといえます。
介助犬と出会った時には邪魔をせず、ユーザーが困っている場合には、まずユーザーに声をかけてから手助けをお願いします。