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- はじめに
- 避妊手術のメリットとデメリット
- 避妊手術を受けるタイミング
- 避妊手術の費用と手続き
- 避妊手術後のケアと注意点
- 避妊手術の効果と注意点
- 避妊手術の効果についての研究とデータ
- 避妊手術を受けさせるかどうかの判断基準
- まとめ
はじめに
犬に避妊手術を受けさせると、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?愛犬の避妊手術を検討したらまず、手術をする場合の最適なタイミングや費用の目安、術後の注意点について把握しておく必要があります。次に挙げるメリットとデメリットを理解し、愛犬にとってより良い選択をしましょう。
避妊手術のメリットとデメリット
愛犬に避妊手術を受けさせるかどうか悩んでいる場合、まずはメリットとデメリットについて把握しておきましょう。避妊手術がメス犬に与える影響を解説します。
病気予防のメリット
犬に避妊手術を受けさせると、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症などの病気の予防につながる点がメリットです。
加齢に伴う性ホルモンへの長期間の暴露が、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症などを引き起こすと言われています。避妊手術をしていないメスは8歳以上の高齢になると、性ホルモンに関係する疾患である乳腺腫瘍の発症率が高まります。
また未手術の高齢犬に多くみられる子宮蓄膿症は、命にかかわる緊急的な病気です。子宮内に膿が溜まり、進行するとショック症状や子宮破裂を引き起こします。
避妊手術を施せば、乳腺腫瘍にかかる確率は大幅に低減し、子宮・卵巣の疾患への心配はなくなります。
他の犬とのトラブル回避
避妊手術をしていないメスは、一般的に6カ月ごとの周期で生理になります。犬の生理は発情出血なので、生理中は発情期ということです。
生理中のメスはオスを引きつけたり、興奮させたりしてしまいます。散歩やドッグラン、カフェなどに出かけた際、興奮したオスに飛びつかれたり、喧嘩になったりする可能性が高まるでしょう。
また去勢していないオスと一緒になった場合、交尾をすると妊娠してしまいます。そのため生理中のメスを連れて出かける際は、細心の注意を払わなければなりません。生理中は出かけないという選択も必要です。
避妊手術をすれば生理と発情期がなくなるので、他の犬とのトラブルを回避できます。
麻酔のリスクなどのデメリット
メスに避妊手術を施す際は、病気の予防やトラブル回避などのメリットだけでなく、デメリットがあることも把握しておきましょう。
避妊手術の際は全身麻酔をかけます。動物病院が安全性の高い麻酔を使用していても、リスクはあります。術前に麻酔をかけても大丈夫かどうかを検査しますが、不慮の事故が発生する可能性は0%ではありません。
麻酔薬へのアレルギーを起こす犬もいれば、術後に呼吸不全・腎不全などを起こす犬もいます。手術中に卵巣や子宮の血管がしっかり結べていない場合は、出血する可能性もあります。特に犬が太っている場合は内臓に脂肪がついているため、血管が結びにくいケースもあり、出血するリスクが増加します。
このように、避妊手術には麻酔や手術自体のリスクがある点がデメリットです。
避妊手術を受けるタイミング
犬に避妊手術を受けさせる場合、適したタイミングがあります。避妊手術に適した年齢と、体調による適切なタイミングを解説します。
年齢による適切なタイミング
メスの避妊手術に適したタイミングは生後およそ6カ月で、初回の生理前です。犬の初めての生理は、一般的に生後6カ月から18カ月の間です。
生後およそ6カ月が避妊手術に適している理由は、生理になる前に避妊手術を行うことで、高確率で乳腺腫瘍の発症を防げるためです。
幼すぎると、手術に耐えられる体力がついていなかったり、体が小さすぎたりして、手術の難易度が上がります。そのため体が成長している、生後6カ月が推奨されています。
初回生理後の適切なタイミング
初回の生理が終わっているメスの場合、避妊手術を受けさせる適切なタイミングは、生理終了より1カ月以上経過してからです。
犬の生理中は発情期なので、子宮全体が普段より充血し、大きくなっています。生理中に避妊手術をすると出血しやすく、通常時に比べてリスクが高くなります。またホルモンバランスが安定していないため、体調不良につながりやすいことも覚えておきましょう。
なお、生理が終わってからも1カ月ほどは、ホルモンバランスが崩れている状態です。そのため初回生理が終わっている犬の場合、生理後1カ月以上経過してからが適切なタイミングです。
避妊手術は全身麻酔をするので、持病がある犬や高齢犬に受けさせる場合、リスクが高くなります。避妊手術をすると決めたら、なるべく若いうちに受けさせるといいでしょう。
避妊手術の費用と手続き
避妊手術を受けさせる場合、費用はどのくらいかかるのでしょうか。避妊手術には2種類あるので、それぞれの費用相場を紹介します。手続きの流れについても把握しておきましょう。
費用の目安
犬の避妊手術には開腹手術と腹腔鏡手術があります。どちらも全身麻酔をする点と、犬の大きさによって費用が変わる点は共通しています。
開腹手術は腹部を切開し、卵巣のみ、もしくは卵巣と子宮を摘出する方法で、動物病院で多く行われている手術です。避妊手術自体の費用相場は3万~8万円程度で、診察料・検査費用・入院費などが加算されます。多くの場合、1~2泊の入院が伴います。
腹腔鏡手術は腹部に小さい穴を数カ所開けて行う手術で、傷口が小さい点と、基本的に日帰りできる点がメリットです。腹腔鏡手術は専用器具や特殊な技術が必要で、複数名で行う手術です。費用相場は5万~10万円ですが、病院によってはさらに高額になるケースもあります。腹腔鏡手術には対応していない動物病院もありますので、事前に確認しておきましょう。
なお自発的な治療・予防として受けさせる避妊治療は、ペット保険の対象外です。しかし卵巣・子宮の病気の治療として避妊手術をした場合は、対象になるケースもあります。
手続きの流れ
犬に避妊手術を受けさせると決めたら、まずは獣医師にタイミングを相談し、手術内容について説明を受けましょう。納得できたら予約をし、避妊手術に備えます。
犬にとって避妊手術は、大きなストレスがかかるものです。ストレスが少しでも減るように、体重測定や健康チェックなどの用事で動物病院を訪れ、動物病院の空気やにおいに慣らしておくとよいでしょう。
避妊手術の前日か当日に、身体検査・血液検査などの術前検査をします。全身麻酔や手術そのものに耐えられるコンディションかどうか、チェックするのです。
一般的に、避妊手術当日もしくは前日の夜からは絶食を指示されます。全身麻酔による嘔吐で食べ物が逆流し、窒息や誤嚥性肺炎を起こすことを防ぐためです。
避妊手術に備え、獣医師の指示をしっかりと聞いておきましょう。
避妊手術後のケアと注意点
犬の避妊手術が終わった後の流れと、飼い主が注意すべきポイントを解説します。抜糸まで無事に過ごし、傷口が完全にふさがって元気になるまで、しっかり愛犬をケアしてあげましょう。
手術後の経過観察
開腹手術の場合、麻酔から目覚めて体調に問題がなければ、1〜2日程度で退院できます。腹腔鏡手術なら日帰りできるケースもあります。
帰宅後から抜糸するまでおよそ1〜2週間の間、犬が傷口を舐めないように注意しましょう。傷口を舐めてしまうと、炎症を起こしたり、化膿したりと、合併症を引き起こす可能性があるためです。
犬が傷を舐めないように、エリザベスカラーを装着させるケースが多くみられます。犬が服に慣れている場合、術後服の方がストレスになりにくいでしょう。性格に合った方法で、傷口を舐めない対策をする必要があります。
傷口の糸がほつれていないか、出血していないかも、こまめにチェックしましょう。
傷口のケア方法
避妊手術後は基本的に、手術の傷を飼い主が消毒する必要はありません。飼い主が傷を触ってしまうと、犬自身も傷が気になりだして、舐めようとする可能性が高まってしまいます。化膿止めとして抗生剤などの内服薬が出されている場合は、きちんと内服させましょう。
避妊手術後は傷口が開かないように、安静が必要です。飛んだり走ったりなどの激しい動きはさせず、散歩は最低限にして、歩くようにしましょう。またドッグランやカフェなど、犬が集まる場所は興奮する可能性があります。傷口がふさがり体調が安定するまでは、他の犬との接触を避けるようにしましょう。
抜糸まで傷口を濡らさないように注意が必要です。汚れてしまった場合は、湿らせたタオルで優しく拭くだけにしておきましょう。
避妊手術の効果と注意点
オス犬の場合は去勢手術をすると、他の犬への興味が薄れて性格が穏やかになったり、マーキング行為が減ったりと、行動に変化がみられます。避妊手術を受けさせたメス犬には、どのような変化がみられるのでしょうか。メス犬の行動変化と、注意点について解説します。
メス犬の行動変化
避妊手術を受けたメス犬は、手術や入院のストレスが原因で、術前と異なる行動をする可能性があります。しかしメス犬の場合、オス犬のように性格が変わることは基本的にありません。
しかし注意点はいくつかあります。まず卵巣・子宮を摘出したことにより、ホルモン量が減少して基礎代謝が落ち、太りやすくなる点です。太ってしまうと足腰や内臓に負担がかかるため、病気の原因になってしまいます。
運動量が減少しがちなので意識して運動させるようにし、食事管理をしっかりしましょう。避妊手術をした犬向けのフードを取り入れるのも一案です。
また術後数年経過してから、まれに尿失禁を起こすケースがあります。原因は明らかになっていませんが、ひとつは、子宮・卵巣の摘出により尿道や膀胱の細胞が退縮し、排尿をコントロールできなくなると考えられています。もうひとつは、排尿をコントロールしているエストロジェンという性ホルモンの働きが低下することによる、ホルモン性の尿失禁です。ホルモン性の尿失禁は、ホルモン剤の投与で治療できます。
避妊手術の効果の持続性
避妊手術は卵巣・子宮を摘出するので、恒久的に効果があります。完全に妊娠しない体になるため、避妊手術を受けさせると、愛犬の子犬を望むことは不可能です。
避妊の方法として、ホルモン剤を注射したり皮下に埋め込んだりして、生理と発情を中止する方法もあります。ホルモン剤の使用をやめるか、埋め込んだホルモン剤を取り出せば、妊娠するようになります。
しかしこの方法は、深刻な副作用を起こす可能性があるので、安全とは言い切れません。
卵巣・子宮を摘出する避妊手術は、犬が一生涯妊娠できなくなる代わりに、現時点では最も安全な避妊方法なのです。
避妊手術の効果についての研究とデータ
犬に避妊手術を施した場合の効果について、健康面と繁殖能力への影響を解説します。避妊手術は病気の予防になりますが、どの程度影響があるのかを把握し、避妊手術を検討しましょう。また繁殖能力の低下についても、しっかり知っておく必要があります。
健康面への影響
犬に避妊手術を受けさせて卵巣・子宮を摘出すると、ホルモンが抑制されるため、乳腺腫瘍の予防効果があります。ただし、避妊手術をするタイミングにより予防効果の確率が異なる点は覚えておきましょう。
具体的には、初回の生理前に避妊手術をした場合、予防効果は約99%です。それ以降の初回生理後は約95%、2回目の生理後は約74%と、徐々に確率が下がっていきます。なお2歳半以降に避妊手術をした場合の予防率は、0%です。
乳腺腫瘍の予防として最も効果的なタイミングは、初回の生理・発情前です。しかし乳腺腫瘍の予防効果が0%とされる2歳半を過ぎてからでも、卵巣・子宮を摘出すれば、子宮系の疾患にかかる心配はなくなります。
繁殖能力の低下
犬に避妊手術を受けさせると、妊娠しない体になります。つまり繁殖能力が完全になくなるということです。
病気の予防や不本意な繁殖を避ける目的で避妊手術をしても、愛犬と長年一緒に暮らしていくうちに、飼い主の考えが変わる可能性がないとはいえません。しかし愛犬の子どもが欲しいと思っても、避妊手術を済ませていると、絶対に叶わないのです。
避妊手術を受けさせれば、愛犬を病気から守れます。しかし繁殖が不可能になるので、避妊手術をする際は、飼い主として慎重に検討して決断しましょう。
避妊手術を受けさせるかどうかの判断基準
愛犬の健康面や繁殖能力について真剣に考えていると、避妊手術を受けさせるべきか迷うこともあるでしょう。判断材料の一助となる公式な基準とガイドライン、飼い主の意思決定の重要性について紹介します。
公式な基準とガイドライン
環境省は「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」で、密集した住宅で犬を飼う際のガイドラインを定めています。同ガイドラインでは、避妊手術を受けさせることを勧めています。犬が病気になるリスクを減らすため、また発情や妊娠、出産による肉体への負担を減らすことが目的です。
独自のガイドラインを設けている自治体もあります。例えば東京都保険医務局の「集合住宅における動物飼養モデル規程」や愛知県の「集合住宅でペットを飼う」、静岡県厚生部生活衛生室の「集合住宅におけるペット飼育ガイドライン」などがあげられます。
これらのガイドラインも、避妊手術を推奨する方針です。自分が住んでいる自治体にガイドラインがあるかどうかを調べ、参考にしてみるのも一案です。
飼い主の意思決定の重要性
愛犬に避妊手術をするかどうかを決めるのは飼い主です。避妊手術をすると繁殖を望めなくなりますが、性ホルモンの影響を受ける病気のリスクが低減し、卵巣・子宮の病気の心配がなくなります。
避妊手術の際にかける全身麻酔はリスクを伴うことや、不慮の事故が起こる可能性があることを併せて考慮しましょう。避妊手術について疑問や不安がある場合は、獣医師に質問して充分な説明を受け、よく考える必要があります。
飼い主として愛犬の健康管理に責任を持ち、慎重に検討して意思決定をしましょう。
まとめ
メス犬に避妊手術をするメリットは、子宮蓄膿症や卵巣腫瘍などの子宮卵巣の病気の不安がなくなる点です。また適切なタイミングで避妊手術を受けさせることで、性ホルモンに関係する疾患である乳腺腫瘍の予防にもなります。
術中は全身麻酔をかけるリスクや不慮の事故が起こる可能性がある点と、避妊手術をすると繁殖能力が完全になくなる点に、注意が必要です。
愛犬の健康や生活を考えて慎重に避妊手術を検討し、飼い主としてできる限りベストな選択をしましょう。