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【獣医師監修】猫のルーズスキンとは?ルーズスキンの役割や肥満との違いの見分け方を解説

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はじめに

猫を横から見ていると、たぷたぷとたるんだお腹がとてもかわいいですよね。でもかわいい反面、「うちの猫は肥満なの?」と心配になる飼い主さんも多いと思います。

でも、たぷたぷに見えるお腹は肥満ではなく、「ルーズスキン」と呼ばれるネコ科特有の皮膚のたるみかもしれません。

今回は、猫のルーズスキンをご存じない方に向けて、どのような役割があるのか、肥満との違いや見分け方などくわしく解説いたします。

猫のルーズスキンとは?

ほとんどの猫をよく見てもらうとわかりますが、お腹がたるんで見えると思います。一見すると太っているようにみえて、愛猫の肥満を心配してしまうかもしれません。

「体重はさほど重くないのに肥満なのかもしれない・・」とつい不安になってしまいますが、それは肥満ではなくネコ科特有のルーズスキンの可能性があります。

ルーズスキン、訳すと「たるんでいる皮膚」といい、成猫の多くにみられます。

お腹から後ろ足にかけてのたるみのこと

ルーズスキンと呼ばれる場所を具体的に説明すると、お腹の中心から後ろ足の付け根にかけて触るとたぷたぷとしている皮膚のたるみの部分をいいます。

猫をお腹からお尻に向けてなでたときに、ちょうどこのあたりが気持ちよくて触っている方もいるはずです。

猫を飼っている方ならば、「あの部分がルーズスキンというのか」と思った方も多いのではないでしょうか。

このルーズスキンは特別なものではなく、個体差はあるものの、猫には必ず備わっているものです。そのため、見た目は太っているように見えますが、決して肥満ではないので安心してください。

猫科のライオンやトラなどにもルーズスキンがある

ルーズスキンは、猫だけに備わっているものではありません。

ライオンやトラなどのネコ科の動物には、猫と同じようにお腹から足にかけてルーズスキンが確認できます。

引き締まったスリムな体型のヒョウやチーターもネコ科なので、よく見るとルーズスキンがあります。

正式名称はプライモーディアルポーチ

日本ではルーズスキンと呼ばれていますが、英語ではプライモーディアルポーチ(primordial pouch)といい、直訳すると「原始的な袋」となります。

日本では皮膚のたるみといわれている部分が、海外では袋として見られているようです。

また、なぜ「原始的」と呼ばれているのか、一説にはこの袋は野生に生息する動物や原種に近い猫の方が発達しているからだといわれています。

ルーズスキンの役割

ルーズスキンは、ただの皮膚のたるみではありません。まったく使われていない部分であれば、長い歴史のなかで退化していたはずです。

それでも現在までネコ科の動物にルーズスキンが存在しているのには、彼らが生きていくうえで大変重要な役割を果たしているからです。

ルーズスキンには主に3つの役割があるといわれています。

1つずつみていきましょう。

お腹への衝撃をやわらげてお腹を守る

1つ目はお腹への衝撃をやわらげる役割です。

動物は、安心できる相手以外には警戒してお腹を見せません。お腹はやわらかく、動物にとって決して攻撃されてはいけない急所の1つです。

野生に暮らす猫やネコ科の動物は、縄張り争いなどで敵とけんかになる場合や、突然外敵に襲われてしまう可能性があります。

その際に、お腹に攻撃を受けてしまうと、重要な臓器や血管を傷付けてしまい命に関わる重傷を負ってしまいます。

しかしルーズスキンがあることにより、もし敵の攻撃を受けても、お腹がルーズスキンに守られて被害が急所まで及ばずに済むことがあります。

このようにルーズスキンには、敵の攻撃からお腹を守るという防御機能があるといわれています。

野生種に近いほどルーズスキンが発達しているといわれる理由は、ネコ科のなかでも特に身を守る必要があったからなのでしょう。

後ろ足を大きく動かせるため瞬発力を発揮できる

猫の身体的特徴といえば、爆発的な瞬発力や、柔軟性、体のやわらかさを活かしたアクロバティックな動きなどがあります。

そのような動きに大切なのは、後ろ足の動きです。後ろ足を大きく動かすことで猫特有の瞬発力が発揮されます。

ルーズスキンがあることで皮膚が伸びて、突っ張ることなく自由に足を動かすことができるようになります。

人間も運動するときは動きやすい服装がよいと思いますが、猫も同様にルーズスキンを持つことによって動きやすい体を手に入れています。

一度にたくさん食べることができる

ペットとして飼われている猫からは想像ができませんが、猫はもともとは狩りをして生きていた動物です。野生の世界では毎日決まった時間に食事を摂れるわけではありません。

狩りが成功しなければ、何日も食事にありつけないことも珍しくありません。

そのため、次の食事がいつになるかわからないので、食べられるときにたくさん食べて「食いだめ」をしておかなければならず、たくさん食べてもお腹が突っ張ってしまわないためにルーズスキンが役立っていると考えられています。

ルーズスキンが袋といわれているのは、このようなことが関係しているのかもしれません。

ルーズスキンはいつできる?

ルーズスキンは最初からあるわけではありません。おそらく猫を飼っている飼い主さんも気付いたらいつのまにかルーズスキンがあったという方も多いでしょう。

ルーズスキンができるタイミングについてご紹介します。

1歳以降にできる

ルーズスキンは子猫の頃からあるわけではありません。健康な子猫ならば、お腹がパンパンに膨れた体型をしており、皮膚がたるんでいません。

多少の個体差はあるものの、成長して体が大きくなる過程で徐々に皮膚がたるみ始めて、1歳を過ぎて、大人の体になる頃にはお腹から足の付け根にかけて皮膚がたるみルーズスキンができます。

これはどの猫種でも変わらず、オス・メスの違いや避妊・去勢手術をしているのかも関係していません。

猫によってはルーズスキンがないことも

ルーズスキンの大きさには個体差があり、猫種によってははっきりと確認しづらい猫も存在しています。

そのため、ルーズスキンがほとんどない子もいますが、触ってみると、小さいながらルーズスキンが確認できます。

正確にはルーズスキンがないというよりも、目立たない子がいるといった方が正しいでしょう。

ルーズスキンが目立ちやすい猫種は?

ルーズスキンは野生で生き抜くために必要な役割をはたしています。そのため、猫種のなかでもより原種に近い猫の方がかつて野生の時代にルーズスキンを必要としていた名残りで目立ちやすい傾向があります。

ルーズスキンがほかに比べて目立ちやすい猫種をご紹介します。

アメリカンショートヘア

狩猟猫だったアメリカンショートヘアは、ルーズスキンが目立ちやすい猫です。太りやすい体質のため、つい肥満と勘違いしがちですが、獲物を捕えるために瞬間的な動きや跳躍を繰り返すうちにルーズスキンが進化していきました。

ベンガル

ルーズスキンが目立ちやすい猫の特徴として、より野生に近い猫が挙げられますが、ベンガルは野生に生息する「ベンガルヤマネコ」の血を色濃く引いているため、ほかの猫に比べてルーズスキンがはっきりと確認できます。

ルーズスキンが目立ちやすい猫種に関しては、キャットショーなどではルーズスキンの状態が審査基準に含まれていることがあるそうです。

ピクシーボブ

ピクシーボブも野生的な一面を持ち、がっしりとした骨格で、運動能力が高いため、ほかの猫に比べてルーズスキンが目立ちやすい猫種になります。

全体的にルーズスキンが目立ちやすい猫種の特徴として、骨格がしっかりとした野生的な印象のある猫種という共通点があることがわかります。

ルーズスキンと肥満は関係ない?

ルーズスキンを初めて見た方は、たぷたぷな見た目により、つい肥満と間違えてしまい、心配になってしまうかもしれません。

肥満と勘違いしてしまい、食事の量を減らしたりしてしまうことのないよう、しっかりと見極める必要があります。

ルーズスキンは脂肪ではないので肥満とは違う

ルーズスキンは皮膚が伸びているのであって脂肪ではありません。そのため太っているように見えても皮膚が伸びているだけならば肥満ではありません。

ルーズスキンはネコ科の動物が、動きやすさを保ち、敵の攻撃から身を守るために備えている重要な機能であり、脂肪の塊ではないので、皮膚が大きくたるんでいても肥満を心配する必要はありません。

ルーズスキンと肥満の違いを確認する方法

ルーズスキンであれば、肥満を心配する必要はありませんが、その反対に、ルーズスキンだと思っていたら脂肪がついており、肥満だということもあります。

ルーズスキンと肥満、この2つの違いを確認するための方法をご紹介します。

お腹を触ってみる

猫のお腹の中心から、足の付け根にかけて触ってみてください。その際にたるんでいる部分を少しつまんでみましょう。

つまんだときに、やわらかく伸びた皮膚だけをつまめるようならば、それはルーズスキンです。

皮膚だけをつまんでいる感触とは異なり、厚みがあり、ぷよぷよとした感触があれば、皮膚の下に脂肪が詰まっていると考えられるため、肥満の可能性が高くなります。

また、背中から腰のあたりを撫でるように触ってみたときに、ルーズスキンならば、肋骨の存在をしっかりと確認できるはずですが、肥満の場合には肋骨の場所がわかりづらいことが多いので、試してみましょう。

猫を立たせて上から見てみる

猫を触る方法のほかにも、立たせた状態で上から見ることで肥満なのかどうか確認できます。

猫の肥満度を測る指標に、ボディコンディションスコア(BCS)というものがあります。

この指標を参考に、BCS3ならば肋骨が浮き出るほど痩せてはいないが、腰のくびれがわずかに確認できる状態で、横から見てもルーズスキンのような皮膚のたるみはあっても、腹部の釣りあがりがみられれば理想的体型と判断できます。

反対に、上から見てもくびれが確認できずに、明らかに厚い脂肪に覆われており、腹部の釣りあがりがなく丸みを帯びて、歩くと揺れるほどの状態ならば肥満体型と考えてよいでしょう。

また、ルーズスキンのようにたるみが確認できるものの、肋骨、腰椎、骨盤が容易に確認でき、首の細さや、腰が深くくびれて、横から見た腹部の釣りあがりがはっきりと確認できるようであれば、ルーズスキンに隠れていますが、痩せすぎと判断できるます。

下図を参考にBCSを用いて、ルーズスキンによって少しわかりづらい猫の体型を判断して、食事などの対策をおこなってください。

飼い主のためのペットフード・ガイドライン

お腹に違和感がある時は病気の可能性も?

ルーズスキンは、皮膚がたるんでいるものだとご紹介しました。もし、お腹の皮膚をつまんでみて、皮膚でも脂肪でもない違和感を感じるようならば、もしかしたら病気になっているかもしれません。

お腹を触ってみて病気の可能性が考えられるのはどのようなときなのか、みていきましょう。

触るとしこりのようなものがある場合

ルーズスキンを確認するときと同じように、お腹を触ってみてしこりのようなものがある場合は、なんらかの病気の可能性があります。

しこりにもいろいろな種類があり、良性のできもののようなものでしたら、適切な治療を施すことで何の問題もなく治まることが多いですが、なかには腫瘍ができていることもあるので注意が必要です。

腫瘍にも良性と悪性があり、良性腫瘍はほとんどが皮膚や、皮膚の直下にできるものが多く、痛みもほとんど感じることはありません。

問題はしこりが悪性腫瘍だった場合です。悪性腫瘍はいわゆる癌のため、早急に治療をする必要があることがほとんどです。

特にお腹のしこりで疑われるのは、乳腺腫瘍です。

乳腺腫瘍は、乳腺の組織の一部が腫瘍化することでしこりができる病気で、猫の腫瘍の中でも発生頻度が高い病気です。

この病気はメスによくみられる病気で、避妊していない猫は避妊している猫に比べ発生率も高く、ある程度年齢を重ねた猫に多くみられることから、ホルモンや加齢が主な原因ではないかといわれています。

また、メスに多くみられる病気でありながら、まれにオスにも発生することがあります。

乳腺腫瘍の怖いところは、80%が悪性腫瘍だということです。そのため、早期発見がとても重要です。

しこりができたまま放置してしまうと、次第に大きくなりリンパ節などに転移してしまうことがあります。

乳腺腫瘍の治療には、早期発見が非常に重要なポイントとなります。

定期的に猫の体を触ってみて、お腹のあたりにしこりを見つけたら、そのまま様子をみることはせずに、まずは動物病院を受診しましょう。

お腹が硬く張っている場合

お腹を触った際に、あきらかにルーズスキンとは違い、お腹が硬く張っている場合には、腹水が溜まってしまっている可能性があります。

猫のお腹に腹水が溜まってしまうおもな原因の1つとされているのは、猫伝染性腹膜炎(FIP)という病気です。

この病気にはウェットタイプとドライタイプの2種類の型があり、腹水が溜まるのはウェットタイプです。

症状として、腹水のほかに元気や食欲がなくなり、お腹は膨らんでいるのに痩せて体重が減少します。

一度発症すると、症状は進行してしまうことが多く、無治療では死亡率もとても高い病気で、けいれんなどの神経症状がみられると、回復が望めなくなってしまうことがあります。

ほかにもリンパ腫や、細菌性の腹膜炎などでもお腹に腹水が溜まってしまうこともありますが、とにかく早期発見が重要となります。命の危険も十分に考えられる病気が多いため、飼い主さんは体を触り、異常を少しでも早く見つけ治療を開始する必要があります。

まとめ

今回は猫のルーズスキンについて解説いたしました。

たるんだ皮膚を見て、「うちの猫は肥満かもしれない」と思っている飼い主さんもあらためてめてお腹を触ってみてあげてください。もしかしたら、それは脂肪ではなくルーズスキンかもしれません。

たるんでいるのが皮膚だと知っていた方のなかにも、もしかしたらルーズスキンの役割はご存じない方もいたかもしれませんが、今回の解説によって猫のお腹の皮膚のたるみにはとても大切な役割があることを知ってもらうことができたのではないでしょうか。

また、ルーズスキンと肥満の見分け方や、病気の可能性についても飼い主さんは理解しておく必要があります。

当記事を参考にして、猫のルーズスキンについて理解を深めていただけたら幸いです。

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