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【獣医師監修】猫の脱肛の症状は?対処法や脱肛を予防するためにできることを解説

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はじめに

猫が健康を保つためには、飼い主が普段から注意深く観察し、異常を見逃さないことが重要です。猫の肛門周りの異常は見逃しがちですが、早期発見が大切になってきます。

脱肛の症状は、猫にとってとても不快なものです。脱肛が発生すると、猫は排便時に苦しむことが多く、放置するとさらなる健康問題を引き起こす可能性もあります。

この記事では脱肛の症状や原因、どのように対処すればよいか、そして予防法などを獣医師監修のもと、詳しく解説します。

脱肛についての基本的な情報を頭に入れておき、飼い主が適切に対応できるようにしておきましょう。

猫の脱肛の症状は?

猫のおしりからピンク色のできものが出ていたり、肛門周りをしきりに気にして舐めていたりする場合「脱肛」といわれる肛門の内側の粘膜が外に飛び出している状況になっているのかもしれません。

猫の脱肛には、肛門脱や直腸脱などの種類にわかれます。どちらも猫にとって痛みを伴う非常に辛い症状です。

この章では、具体的な症状の見分け方について詳しく解説していきます。愛猫の健康を守るために、脱肛の初期症状を見逃さないようにしましょう。

肛門脱の場合

肛門脱(こうもんだつ)とは、肛門の内側にある粘膜が外に飛び出してしまった状態のことをいいます。

この症状がみられるときは、肛門の出口に充血した赤い粘膜がポリープのように見えるため、飼い主はお尻にできているものが、ただの「できもの」と思うことが多いです。

猫がトイレで排便する際に、一時的に粘膜が見えることがありますが、脱肛の場合は排便時以外でも粘膜が肛門の外に出たままとなります。粘膜の見た目は、まるでソーセージのようです。

肛門脱は痛みを伴います。そのため猫は頻繁に患部を舐めたり、排泄を嫌がる仕草を見せたりするでしょう。

直腸脱の場合

直腸脱(ちょくちょうだつ)は、肛門から直腸そのものが反転して外に飛び出してしまった状態で、肛門にドーナツ状のふくらみができることが特徴です。

肛門脱と同じように痛みを伴うことが多く、猫は患部を舐めたり排泄を嫌がったりします。

直腸脱は、肛門から離れた場所にある直腸の粘膜が反転して出てくるため、脱肛よりも広範囲の腸が外に出てしまう状態となります。

どちらの場合も、早急に獣医師の診察を受けることが重要です。腸が脱出したまま長時間放置すると、乾燥や血行不良による壊死、さらには猫自身が舐めたりかじったりして腸を損傷するリスクが高まります。

脱肛の原因として考えられること

猫の脱肛の原因はさまざまですが、いずれも早期発見と対処が重要です。脱肛は、寄生虫感染や慢性的な便秘、過度のいきみなどが要因として挙げられます。

また、特定の年齢層や健康状態にある猫が脱肛を起こしやすいこともあります。ここでは、脱肛の原因について詳しく紹介します。

感染症・寄生虫症・胃腸の疾患などの病気

猫の脱肛の主な原因の一つは、感染症や寄生虫症、胃腸の疾患によるものです。

細菌やウィルス、消化管内寄生虫に感染すると、慢性的な下痢や、便意があるのにほとんど便が出ない状態の「しぶり」が続き、脱肛を引き起こすことがあります。子猫や若い猫の脱肛に多くみられる原因です。

寄生虫の種類は、トリコモナスやジアルジアなどの原虫、条虫や線虫があります。

これらが腸に感染し、腸炎を引き起こし、下痢やしぶりがおこります。そして、直腸の粘膜が炎症を起こしやすくなります。

子猫や若い猫に多く見られると挙げましたが、中高齢の猫においても、食事性の腸炎や腫瘍性、突発性の炎症性腸炎などが脱肛の引き金となることがあります。

また、感染症や寄生虫症による腸炎が続くと、直腸の粘膜が腫大して肛門から飛び出てしまうこともあります。

病気による下痢やしぶりを放置すると、直腸の炎症が悪化し、脱肛のリスクが高まるため、定期的な健康チェックと早期の治療が重要です。

強いいきみ

猫が強くいきむことが、脱肛の原因になることがあります。妊娠しているメス猫は分娩時に起こりやすいです。

出産時に腹圧が高まることで、腸が圧迫され、肛門付近の粘膜や直腸の一部、または全部が外に押し出されてしまうことがあります。強いいきみによって脱肛が発生しやすくな るのです。

また、膀胱炎や尿路結石症などで排尿時に何度もいきむ場合や、慢性的な便秘で排便時に強くいきむ場合も、脱肛の原因となります。これらの状況が原因で、直腸が外に押し出され、戻らなくなることで直腸脱が起こります。

強いいきみによる腹圧の上昇が、直腸脱を引き起こす大きな要因となるのです。

猫が強くいきむ状況は脱肛のリスクが高まるため、原因となる健康問題を早期に発見して適切に対応することが重要です。

便秘

猫は、3日以上便が出ないような便秘がよくみられます。便秘になると、猫はトイレに入り排便姿勢をとりますが、便が出ないためこれを何度も繰り返します。しかし、何度もいきむことで腹圧が強くなり、肛門付近の粘膜や直腸が外に押し出されてしまいうのです。

便秘が続くと、猫はしぶりを伴うことがあります。この症状は、下痢の際のしぶりとよく似ているため、便が出ているのか日頃からしっかりチェックしておきましょう。

便秘になった猫が強くいきんでいる場合、脱肛のリスクが高まります。早めに動物病院を受診しましょう。

肛門括約筋のゆるみ

猫の肛門には、肛門括約筋(こうもんかつやくきん)という筋肉があり、肛門を閉じたり開いたりする役割を果たしています。

栄養不足や内科的疾患、神経的な問題、外傷などで肛門括約筋の筋力が低下すると、排便時に少し力を入れただけで、肛門内の腸や粘膜が外に出やすくなってしまい、脱肛の原因となってしまいます。そのため、肛門括約筋がゆるむということは避けた方が良い状況です。

特に子猫や若い猫は肛門括約筋が未発達なため、繰り返し下痢をすると直腸が脱出しやすくなったり、栄養失調や内科的疾患で肛門括約筋の筋力が衰えると、粘膜や腸が簡単に外に押し出されてしまったりします。

脱肛を防ぐためには、栄養不足や疾患、ストレスや怪我などに注意し、肛門括約筋の健康状態を保つことが重要です。

猫が脱肛したらどうしたらいい?

脱肛を見つけた場合、できるだけ早く動物病院を受診するのが一番です。しかし、すぐに病院に行けない場合でも、いくつかの対策があります。

飼い主は病院に連れて行くことを大前提において、それまでに自宅でできる処置について、しっかり頭に入れておきましょう。

できるだけ早く病院へ連れて行く

脱肛を見つけたら、動物病院へ早急に連れていくことを最優先にしてください。特に腫れがひどい場合や、猫が痛がっている場合は無理をせず、専門の治療を受ける必要があります。

軽度の脱肛の場合、粘膜や直腸が出ている部分に潤滑剤を塗り、優しく肛門の中に戻すこともできます。しかし、猫が痛がったり腫れがひどかったりする場合は無理に戻そうとせず、早めに動物病院に連れていきましょう。

病院へ行く前に自宅でしておきたい処置

脱肛を見つけたら、まずは猫が肛門を舐めたり、床にお尻を擦り付けたりしないように注意しましょう。過剰に気にする猫は、場合によっては粘膜を噛みちぎってしまう可能性もあります。すぐに病院に行けない場合には、自宅でできる応急処置が重要です。

以下、自宅でできる応急処置を挙げています。何ができるかをしっかり考えましょう。

粘膜が乾燥しないように濡らしたガーゼを当てる

脱出した粘膜が乾燥しないように、グリセリンや食用油などの潤滑剤を塗ってください。もし潤滑剤がない場合は、生理食塩水や水で濡らしたガーゼを当てて、患部をしっかり保護しましょう。乾燥を防ぐことで、粘膜がさらに傷つくのを防げます。

猫が腸を舐めないようにエリザベスカラーをつける

猫が脱出した腸を舐めて傷つけないようにするために、エリザベスカラーをつけることをおすすめします。これにより、猫が自分で傷を広げるのを防げます。

病院での処置に備えて食事はさせない

動物病院での処置に備えて、脱肛が見つかった場合は猫に食事をさせないほうが良いです。

麻酔が必要になる場合があるため、空腹状態で連れていきましょう。

病院での処置

応急処置として、脱肛部分に潤滑剤を塗り、優しく押し戻すこともできますが、自宅でうまくできなかった場合は、病院でもこの処置から行います。

脱出した直腸を元に戻す処置

まず病院でも、脱出した直腸をもとに戻すために、潤滑剤を使って直腸を優しく肛門の中に戻します。ここまでは自宅でもできますが、病院では中に戻した後に、再発を防ぐため、肛門周りを糸で接合して出口を狭くし、粘膜が再度飛び出さないように固定する方法を取ることが多いです。

この処置は、通常1週間程度行われ、その間は排便が正常に行われているか、注意深く観察しなければいけません。

外科手術

脱肛が再発したり、直腸が壊死したりしている場合には、脱肛の症状がひどくなっているため、外科手術が必要です。

軽度の脱肛の場合、肛門周囲の皮膚を接合して粘膜が出にくいようにしますが、重度の直腸脱では、直腸や結腸をお腹の中に固定する手術が行われます。

直腸に壊死した部分がある場合、壊死部位の切除と残った腸の断面を繋げなくてはいけません。これらの手術は、全身麻酔や部分麻酔が必要となり、猫にとって大きな負担です。

そのため、脱肛を見つけたら、粘膜の状態が悪化する前に早めの対応が求められます。早期の治療と、脱肛になる原因の治療をしっかり行うことで、再発を防ぎ、猫の健康が守れます。

脱肛を予防するためにできること

猫の脱肛を予防するためには、いくつかの重要な対策があります。その中でも、まずは寄生虫感染の予防や適切な健康管理が大切です。

猫のお腹の中に寄生する寄生虫にはさまざまな種類があり、成猫が感染してもあまり症状が出ないことが多いです。しかし、子猫が感染すると激しい下痢を引き起こし、直腸脱の原因になることがあります。

特に野良猫は寄生虫に感染している確率が高いので、家に迎え入れる際には必ず動物病院で寄生虫検査を行い、駆除しなければいけません。

便検査を行い、必要に応じて早期に駆除薬で治療することで、慢性の下痢やそれに伴う直腸脱の発症を予防できます。

また、定期的に動物病院で健康チェックを受けることも重要です。早期発見と早期治療が脱肛の予防につながります。特に便秘や下痢などの症状がみられた場合は、すぐに獣医師に相談しましょう。

さらに、猫の生活環境を清潔に保ち、ストレスを減らすことも脱肛の予防の一つです。適切な食事や十分な運動、清潔なトイレ環境を整えることで、猫の消化器系の健康を維持できます。

便秘を防ぐための工夫をする

猫の脱肛を予防するためには、便秘を防ぐことも重要です。

猫は3日以上便が出ないと便秘になることが多く、その際に強くいきむことで脱肛が発生するリスクが高まります。

そのため、猫が便秘にならないよう、普段からしっかり管理してあげましょう。

便秘に効果がある栄養素を摂る

猫の食生活に繊維質を取り入れることは、便秘の予防に効果的です。

食物繊維は腸の働きを活発にし、便の排出をスムーズにします。さつまいもやバナナなどの、食物繊維が豊富な食材を適量、フードに混ぜて与えてみると良いでしょう。

また、消化が良く、グルテンや乳糖、保存料が含まれていないフードを選ぶことも重要です。さらに、サイリウム(オオバコ属の植物の種子の皮を砕いたもの)など、可溶性の食物繊維を豊富に含むサプリメントも有効なためおすすめです。

排便しやすいようにワセリンを塗る

もしも猫の便が出にくいと感じるならば、排便しやすくするために、肛門周辺を清潔にした後にワセリンを塗ると良いでしょう。これにより便の排出がスムーズになり、強くいきむ必要がなくなります。

脱肛している時だけでなく、日常的にワセリンを塗ることで、脱肛の予防につながります。

日頃から食生活や運動に気をつける

猫の健康を保つために、日常的な食生活や運動にも気をつけることが重要です。

栄養不足や基礎疾患が、脱肛の原因になることが多いため、バランスの取れた食事を与え、適度な運動を促しましょう。

飼い主は、1日に少しの時間でいいので、おもちゃを使って遊んであげましょう。運動不足解消やストレス解消だけでなく、飼い主と遊ぶことで、絆も深まります。

そのほか、キャットタワーやキャットウォーク、背の高い家具をうまく配置して、猫が自ら上下運動ができる環境に整えてあげると、日常的に運動する時間も増えます。

また、あまり水を飲まない猫のために、水分補給を十分にできるよう、うまく誘導することも大切です。家の中では何箇所かに分けて水を置いておき、いつでも水分補給がしやすい環境を整えてあげましょう。自動給水機などの水の流れるものを使用すると、猫が興味を示して飲んでくれやすくなります。

そのほか普段のドライフードに加えて、ウェットフードを取り入れるのも良いです。ウェットフードは普段の食事から水分も補給できるためおすすめです。

以上の予防策を実施することで、猫の脱肛のリスクを大幅に減らせます。日常的なケアと早期の対応が、猫の健康を守るために重要です。

まとめ

猫の脱肛は、肛門や直腸の粘膜が外に飛び出す状態であり、早急な対応が求められる症状です。便秘や強い腹圧、寄生虫感染などが主な原因となります。

脱肛を見つけた場合、まずは動物病院に行くことが一番ですが、自宅での応急処置として、肛門周りを清潔に保ち、潤滑剤を使用して慎重に粘膜に戻すと良いでしょう。また、エリザベスカラーを使って猫が患部を舐めないようにすることも重要です。

脱肛を予防するためには、食物繊維を含む食事や、適切な水分摂取で便秘を防ぎ、定期的な健康診断を受けることが大切です。

猫の健康を維持するために、日頃からのケアと早期の対応を心がけましょう。

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