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【獣医師監修】猫の前歯がないのはなぜ?前歯が抜ける原因や食事への影響を解説

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はじめに

猫の前歯を見たことがある人は少ないと思いますが、猫に前歯がないわけではありません。猫の前歯は非常に小さいですが、ちゃんと役割を果たしています。

ただ、猫の前歯は病気などで抜けてしまっているケースもあり注意が必要です。

今回は、猫の前歯について詳しく紹介します。

猫の前歯が抜ける原因や食事への影響を詳しくまとめているので、歯の健康を維持するためにぜひチェックしてください。

猫の前歯がない?

猫をよく観察すると、前歯がないように見えますが、必ずしも異常ではありません。猫の前歯は非常に小さく、目立ちにくいため、口を閉じていると確認しづらいのです。

猫の前歯は「切歯」と呼ばれ、上下に6本ずつ、合計12本あります。

切歯の役割は主に食物を引き裂くことよりも、毛づくろいや軽い掻き取り作業に使われるため、あまり目立ちません。

一方で、猫が高齢であったり、口腔トラブルを抱えたりしている場合、前歯が抜けてしまうこともあります。

例えば、歯周病や口内炎、あるいは腫瘍などの口腔疾患が進行すると、歯が抜けやすいです。結果的に前歯が失われてしまうこともあります。

また、歯の生え変わり時期の子猫も、一時的に前歯がない状態になりやすいです。

猫の歯の基本知識

次に、猫の歯の基本知識を紹介します。歯の本数や歯の種類について詳しく解説するので、まずは猫の歯がどんな役割を果たしているかチェックしましょう。

猫の永久歯は全部で30本

成猫の口には、上顎と下顎に15本ずつ、合計30本の永久歯が生え揃います。猫の歯は、食べ物を噛み砕くだけでなく、毛づくろいや狩りの武器としても重要です。

乳歯は生後2〜3週間で生え始め、最初に切歯、次に犬歯、最後に臼歯が生え揃います。そして、生後約7ヶ月頃には、乳歯が永久歯に生え変わり、大人の猫の歯が完成するのです。

乳歯は26本ですが、永久歯に生え変わると30本になるため、永久歯のほうが本数が多くなります。

歯の種類と本数・役割

猫の歯には3種類あり、それぞれが異なる役割を果たしています。

  • 切歯
  • 犬歯
  • 臼歯

それぞれ詳しく紹介するので、愛猫の歯の種類を見分けられるようになりましょう。

切歯

まず、切歯(せっし)は猫の前歯にあたり、上下に6本ずつ、合計12本存在します。切歯は非常に小さく、普段は目立ちにくいですが、食事や毛づくろいに便利です。

猫は毛づくろいを頻繁に行い、切歯を使って被毛を整えたり、汚れを取り除いたりします。

また、飼い主との遊びの中で柔らかい物を引っ張る際にも使われますが、切歯は非常に小さくて力が弱いため、食べ物を噛み砕く役割は持っていません。

食事面においても、噛み切る力を必要とする場面では、切歯よりも他の歯が活躍します。

犬歯

次に、犬歯(けんし)は猫の口の中で最も目立つ歯で、上下に2本ずつ、合計4本あります。鋭い犬歯は、猫の狩猟や防御において非常に重要です。

猫が獲物を捕らえる際、犬歯は獲物の皮膚や肉をしっかりと掴むために使われます。また、攻撃や防御の際、犬歯が最も強力な武器となり、相手に深い傷を与えることが可能です。

さらに、食事においても犬歯は重要な役割を果たし、肉などの食物を引き裂く際に使用されます。

臼歯

最後に、臼歯(きゅうし)は猫の奥歯に位置し、上下に7本ずつ、合計14本存在します。臼歯は、他の歯と異なり、食べ物を細かくすり潰し、消化しやすい形にするのに便利です。

特に、乾燥したキャットフードや骨などの硬い食べ物を噛み砕く際に重要な役割を果たします。

猫は肉食動物であるため、食事中に食べ物を効率よく噛み砕いて、消化器官での負担を減らすことが必要です。

臼歯の役割は噛み砕くことに特化しており、猫が食事をしっかりと噛むと消化を助け、胃腸への負担を軽減します。

猫の前歯がない原因は?

次に、猫の前歯がない原因を紹介します。

  • 歯の生え変わり
  • 口内炎
  • 歯周病
  • 腫瘍
  • 破歯細胞性吸収病巣

それぞれ詳しく紹介するので、愛猫に前歯がない場合は病気の可能性などを疑ってください。

歯の生え変わり

まず、猫の前歯がない原因は歯の生え変わりです。歯の生え変わりが起こるタイミングや仕組みについて詳しく見ていきましょう。

生後3ヶ月ごろから永久歯に生えかわる

猫の歯は、生後2〜3週間頃に乳歯が生え始め、生後3ヶ月を過ぎる頃から永久歯に生え変わります。永久歯への生え変わりは、通常7ヶ月頃までに完了する場合が多いです。

乳歯は全部で26本あり、永久歯になると30本に増えます。生後3ヶ月頃に乳歯が抜け始めると、飼い主は「猫の前歯がない」と感じる場合があるのです。

生え変わりの時期には、一時的に歯が抜けて見えますが、自然な過程であり特に問題はありません。

生え変わりが進む際、猫は歯茎に違和感や軽い痛みを感じるケースがあり、固い物を噛んで不快感を和らげようとする場合があります。

乳歯の歯根が溶けて乳歯が抜ける

猫の歯が生え変わる過程では、乳歯の歯根が溶けて自然に乳歯が抜け、永久歯が生えてきます。乳歯の根っこが吸収されていき、歯自体が徐々にぐらついて抜け落ちるのです。

乳歯が抜けるタイミングは個体差がありますが、通常は猫が生後7〜8ヶ月の間にほぼ全ての乳歯が抜けて永久歯が揃います。

生え変わり中は、飼い主が気づくことは少なく、乳歯は猫が無意識のうちに飲み込んでしまうケースもよくあります。

乳歯が抜ける時期には、歯茎が少し腫れたり出血したりすることがありますが、特に問題ありません。

口内炎

次に、猫の前歯がない原因は口内炎です。口内炎の原因や特徴について詳しく見ていきましょう。

ウイルス感染や細菌感染による免疫力の低下

猫の口内炎は、ウイルス感染や細菌感染によって引き起こされる場合が多く、原因には免疫力の低下が関係しています。また、口腔内細菌に対する免疫の過剰反応も、口内炎に関係していると考えられます。

特に、猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスなどの感染症は、猫の免疫システムに深刻な影響を与え、口内炎や歯周病のリスクを高めるのです。

ウイルスに感染した猫は、口腔内の細菌やウイルスに対抗する力が弱まり、口内の炎症が進行しやすくなります。

そして、口内炎が進行すると、前歯を含む歯が抜ける場合があるのです。

口腔内のトラブルは、早期に治療を行わないと、猫にとって大きな痛みや食欲不振を引き起こす可能性があります。

歯垢や歯石でも口内炎ができる

猫の口内炎は、ウイルスや細菌だけでなく、歯垢や歯石の蓄積も原因となります。食事後の歯に残った食べかすが歯垢となり、時間とともに硬化して歯石へと変わるのです。

歯垢や歯石がたまると細菌が繁殖しやすくなり、歯茎や周辺組織に炎症を引き起こし、最終的に口内炎を発症します。

口内炎が進行すると、前歯を含む歯がぐらついたり、痛みで食欲が減退したりする場合が多いです。

猫は自分で歯磨きできないため、飼い主は定期的な口腔ケアを行いましょう。特に高齢の猫や軟らかいフードを食べている猫は、歯垢や歯石がたまり、口内炎を発症しやすいです。

歯周病

3つ目に、猫の前歯がない原因は歯周病です。歯周病の原因や特徴について詳しく見ていきましょう。

歯周病の進行によって歯が抜ける

猫の歯周病は、歯茎や歯の周囲の組織が炎症を起こす病気で、進行すると歯が抜ける場合があります。

歯周病は、歯垢や歯石が蓄積して引き起こされ、特に前歯や奥歯が影響を受けやすいです。

歯垢や歯石に含まれる細菌が歯茎に炎症を引き起こし、最終的には歯を支える骨や組織を破壊してしまうため、歯が抜け落ちていきます。

初期段階でみられるのは、歯茎が赤く腫れたり、口臭が強くなったりするなどの症状です。そして、進行すると歯のぐらつきや痛みを伴い、食事がしづらくなります。

猫は痛みを隠す傾向があるため、症状が進行してから気づくことが多いです。

高齢の猫に多い

歯周病は特に高齢の猫に多く見られます。年齢を重ねると猫の免疫力が低下し、歯や歯茎の健康状態も悪化しやすくなるのです。

高齢の猫は若い猫に比べて口腔内の細菌に対抗する力が弱く、歯垢や歯石が蓄積しやすいため、歯周病のリスクが高まります。

また、高齢の猫は食事に固い物を避ける傾向があり、軟らかいフードを食べて歯に汚れがたまり、歯周病が進行しやすいです。

歯周病が進行すると、歯が抜けるだけでなく、猫が食事を摂るのが困難になり、体重減少や栄養失調につながる可能性があります。

歯周病の早期発見と治療が重要であり、定期的な歯科検診や口腔ケアが高齢の猫にとって不可欠です。

腫瘍

4つ目に、猫の前歯がない原因は腫瘍です。腫瘍ができる仕組みや特徴について詳しく見ていきましょう。

口の中や顎にできる腫瘍によるもの

猫の口の中や顎にできる腫瘍が原因で、歯が抜ける場合もあります。腫瘍は良性のものもありますが、悪性の腫瘍が多く、特に口腔内や顎に発生する腫瘍は進行が早いです。

腫瘍が歯茎や顎の骨に影響を及ぼすと、歯がぐらつき、最終的に抜けてしまう恐れがあります。

腫瘍が成長すると、猫は口の中に異物感を感じたり、食べ物をうまく噛めないので食欲不振になったりしやすいです。

口腔内や顎にできる腫瘍は、猫の口腔内を観察していても初期段階では見逃されやすく、進行するまで気づかない場合があります。

口の周囲に発生する主な悪性腫瘍

猫の口腔内や周辺に発生する悪性腫瘍の中でも、特に扁平上皮癌が最も一般的です。扁平上皮癌は、口の中や舌、歯茎、顎に発生し、進行しやすい特徴を持っています。

悪性腫瘍が歯茎や骨にまで広がると、歯が抜け落ちたり、骨が侵食されて顎の形状が変わってしまう場合が多いです。

また、口腔内の悪性腫瘍は痛みを伴い、猫が食べ物をうまく食べられなくなったり、口臭がひどくなったりするなどの症状が見られます。

悪性腫瘍が疑われる場合、早期の診断と治療が必要です。また、残念ながら口腔内の悪性腫瘍は再発リスクが高いため、定期的な経過観察が重要になります。

良性腫瘍で歯が抜けることはほとんどない

猫の口腔内にできる腫瘍には良性のものも存在します。例えばエプリスなどの良性腫瘍は歯茎にできる腫瘍で、周囲の組織や骨に大きな影響を与えることはありません。

良性腫瘍は、通常は歯が抜ける原因にはなりませんが、腫瘍の大きさや位置によっては、口の中に不快感を与えたり、食事に支障をきたしたりする恐れがあります。

場合によっては歯茎や歯に圧迫をかけ、痛みを伴うケースもありますが、悪性腫瘍とは異なり、命に関わることはほとんどないです。

良性腫瘍が確認された場合でも、成長して猫の生活に支障をきたすようであれば、獣医師による外科的な切除を検討しましょう。

破歯細胞性吸収病巣

最後に、猫の前歯がない原因は破歯細胞性吸収病巣です。破歯細胞性吸収病巣になる要因や特徴について詳しく見ていきましょう。

破歯細胞の働きが暴走して起こる

破歯細胞性吸収病巣は、猫の歯の組織が破歯細胞の過剰な活動によって破壊される病気です。

破歯細胞は歯の成長過程や古くなった歯の組織の除去に関与していますが、破歯細胞の働きが暴走し、健康な歯の根元や表面を吸収してしまいます。

そして、歯が徐々に崩れて抜け落ち、猫にとって強い痛みを伴うのです。​​破歯細胞性吸収病巣は前歯や犬歯、臼歯など、どの歯にも影響を及ぼす可能性があります。

初期にはほとんど症状が見られないため、進行するまで気づかない場合が多く、気づいた時にはすでに歯がぐらつき始めているケースも少なくありません。

4歳以降の猫に見られる

破歯細胞性吸収病巣は、特に4歳以上の成猫に多く見られる病気です。破歯細胞性吸収病巣は、加齢に伴って発生率が高くなるため、成猫や高齢の猫は特に注意しましょう。

若い猫では比較的まれですが、4歳以降の猫ではこの病気のリスクが高まります。

破歯細胞性吸収病巣の初期段階では、歯が見た目には健康そうに見えるケースが多いため、飼い主が気づかない場合が多いです。

しかし、進行すると歯茎が赤く腫れたり、食事の際に痛みを感じて食べにくそうになったりします。

高齢の猫ほど破歯細胞性吸収病巣のリスクが高まるため、定期的な歯科検診が重要です。

原因はまだわかっていない

破歯細胞性吸収病巣の原因は、現在のところ明確には解明されていません。

さまざまな研究が行われているものの、遺伝的な要因や環境的な要素、食生活や口腔内の状態が影響している可能性が考えられています。

一部では、栄養不足や免疫システムの異常が関連しているのではないかという仮説もありますが、決定的な原因はまだ特定されていません。

原因がわかっていない状態が、破歯細胞性吸収病巣の予防や治療を難しくしている要因の一つです。

前歯がない猫の食事への影響は?

次に、前歯がない猫の食事への影響を紹介します。前歯がない場合に生活に支障が出るのか詳しくチェックしましょう。

前歯がなくても食事に支障が出ることはほとんどない

猫は肉食動物であり、主に肉を噛み切って食べるため、犬歯や臼歯が非常に重要です。

一方、前歯である切歯は、物を細かくかじるために使われますが、猫の食事においては前歯の役割はそれほど大きくありません。

そのため、前歯が抜けたり欠けたりしても、猫は通常の食事に大きな支障をきたすことはないでしょう。

ただし、前歯がない状態は、通常の食べ方が少し変わることを意味します。

例えば、前歯がないと、食べ物を噛み切るのに少し時間がかかったり、固いものを噛むときに犬歯や奥歯に負担がかかったりする場合が多いです。

しかし、猫自身が適応するため、飼い主が特に心配する必要はありません。前歯がない猫でも、適切な食事を与えると健康を維持でき、日常の食事を楽しむことができます。

粒の大きなフードが食べにくい場合はフードを変える

前歯がない猫にとって、粒の大きなドライフードや硬い食べ物は、食べにくい場合があります。

特に、前歯を使ってフードを掴んだり、細かくかじりながら食べたりできなくなるため、食べ物が口からこぼれ、噛むのに時間がかかりやすいです。

そのため、飼い主は猫にとって食べやすいフードを選びましょう。例えば、粒の小さなドライフードやウェットフードなどを試すと、猫がスムーズに食事を摂ることができます。

また、ドライフードを与えたい場合でも、粒を小さく砕いたり、ぬるま湯やスープでふやかしたりすると、猫が食べやすくなります。

ウェットフードは前歯がなくても簡単に食べられるため、消化に優れていてシニア猫や歯に問題がある猫にも最適です。

まとめ

今回は、猫に前歯がない理由について詳しく紹介しました。猫の歯は切歯、犬歯、臼歯の3種類でそれぞれ別の役割を果たしており、永久歯は全部で30本です。

猫は前歯が非常に小さく見えていない場合もありますが、生え変わりや口内炎、歯周病、腫瘍、破歯細胞性吸収病巣の影響で歯が抜けてしまう場合があります。

前歯がない猫でも特に食事に影響をきたすわけではないですが、粒の大きなフードや硬いフードは避け、猫が食べやすいように工夫しましょう。

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