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はじめに
猫によくみられる疾患として、甲状腺機能亢進症があります。
猫を飼っている方のなかには病名くらいは聞いたことがあるけれども、実際にどのような症状や特徴があるのかご存じない方も多いのではないでしょうか。
今回は、猫の甲状腺機能亢進症について、症状や治療法までくわしく解説しています。
甲状腺機能亢進症と診断される猫は、年々増加傾向にあり、愛猫の異常を見落とさないためにも正しい知識を今のうちのうちに持っておくことが重要です。
猫の甲状腺機能亢進症とは?
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンが、過剰に分泌されてしまう病気です。
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されてしまうことで、さまざまな臓器に負担をかけてしまい、場合によっては命に関わることがあります。
甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる病気
甲状腺機能亢進症が、甲状腺ホルモンの過剰分泌ということはお伝えしましたが、そもそも甲状腺ホルモンが体にどのような影響をあたえているのかみていきましょう。
甲状腺ホルモンは全身の代謝をよくする働きがある
甲状腺ホルモンとは、のどのあたりに左右1つずつある甲状腺から分泌されるホルモンで、正常な状態ならば、全身の細胞に作用し、代謝を活性化する働きがあります。
脂肪や糖分を燃やしエネルギーを作り出すことで、細胞の新陳代謝を盛んにする働きや、交感神経を刺激して、心臓の機能や発汗の調整をおこないます。
全身に作用する甲状腺ホルモンが正常に分泌されることは、猫の成長や健康維持にとって欠かせないものとなっています。
分泌が異常に増えるとさまざまな臓器に負担がかかる
甲状腺ホルモンの分泌が多ければ多いほど健康かというと、そういうわけではありません。
甲状腺ホルモンが異常に増えると、とても活発になり、一見これまでより元気になったようにみえますが、過剰なホルモンの分泌が続くことで代謝が異常に活性化し、内臓に負担をかけるようになります。結果的に体力を消耗し、だんだんと元気がなくなり、さまざまな症状が出るようになります。
異常な活性化をできるだけ早く食い止めるためにも、早期発見が大切です。
中高齢の猫に多い
甲状腺機能亢進症は、おもに中高齢の猫に多くみられるため、7歳を超えたら特に注意が必要です。
本来、年齢を重ねることで運動量や食欲が減少し、性格的にも落ち着いてきますが、甲状腺機能亢進症になると、とても元気にみえることがあります。
7歳くらいの年齢だと、まだまだ元気な猫も多いため、余計にわかりづらく「うちの猫は食欲もあるし健康的で元気だ」と考えてしまい、発見が遅くなることがあります。
そのため、中高齢になってきたら、これまでと比べて急に様子が変わったなどの変化を見逃さないようにしてください。
10歳を超えた高齢の猫の場合は、前述したように突然元気になった場合には、甲状腺機能亢進症を疑って動物病院を受診した方がよいでしょう。
猫の甲状腺機能亢進症で見られる症状
甲状腺機能亢進症になった際にみられる、おもな症状をご紹介します。
食欲が増える
あるときを境に食欲がいままでよりも増してきたら、注意が必要です。
今まで、既定の量を与えていて、特に足りない様子もなかったはずなのに急にがっついて食べ始めて、もっと欲しいと要求してくることがあれば甲状腺ホルモンの異常が関係している可能性があります。
よく食べるのに体重が増えない
甲状腺機能亢進症でよく見られる症状として、本来、食欲が増しているので体重が増えるはずなのに増えないどころか減ってしまうといったことがあります。
本当に健康的な肉体ならば、食事量が増えることで太ってしまい、肥満になる可能性はあっても、体重が減少してしまうことは考えにくいものです。
特に筋肉量が減少することが多く、体型にも明らかな変化がみられるようになります。
老化による体重や筋肉量の減少はよくあることですが、食欲が以前より増しているにも関わらず、体が痩せてくる場合には甲状腺機能亢進症の可能性が高くなります。
水分の摂取量が多くなる
もともと猫は飲水量の少ない動物です。
猫がたくさん水を飲んで、尿量が増えた場合にはなんらかの病気が隠されているサインです。
健康な猫の場合、血液を腎臓でろ過して、必要な水分やミネラルが体内に再吸収され、不要な水分が濃縮されて尿として排出されます。
甲状腺機能亢進症になると代謝が活性化されることで、体内に流れる血液量も増え、体内の水分量が増えすぎるため、腎臓で再吸収しきれずに排出される尿が増えます。
排出量が増えることで、体内が水分を欲してしまい、水の摂取量が増えるようになります。
また、代謝の過剰な活性化により、腎臓に大きな負担をかけ続けることで慢性的な腎臓疾患になってしまうことがあり、甲状腺機能亢進症とあわせて治療が必要となってしまうため、愛猫が多飲多尿になったと感じたら、獣医師に相談することをおすすめします。
猫の尿量を測ることは難しいですが、ペットシートの交換頻度が増えたり、猫砂のかたまりがいつもより大きくなったりしていないかチェックするようにしてください。
落ち着きがなくなる
甲状腺ホルモンの過剰分泌によって、じっとしていることが少なくなり落ち着きがなくなることがあります。
成長した猫は、比較的のんびり過ごす時間が多く、特に高齢になればなおさらです。
しかし、甲状腺が活発に働き過ぎているため、ソワソワと落ち着きなく動きまわる子がいます。
遊んでいるときなどは当然動き回るため、あまり気にする必要はありませんが、明らかにうろうろと徘徊しているようならば異常を疑ってもよいでしょう。
よく鳴くようになる
特に何もないのによく鳴くようになっている場合も、甲状腺機能亢進症の症状の可能性があります。
発情行動などと関係なく、成猫が頻繁に鳴くようなケースはそれほど多くはありません。
もともとの性格などもあるので、すべてが甲状腺を原因とするものとは限りませんが、おとなしい子が最近よく鳴くようになったなと感じたら、注意しておく必要があります。
攻撃的になる
精神的な高ぶりにより、はっきりとした感情表現をすることが増えます。
特にイライラと落ち着きがないときには、飼い主に対しても攻撃的な姿勢をみせることがあります。
このようなときには、あまり無理に構うようなことはせずに、少し離れて様子を見てあげてください。
無理に構うことで余計に刺激してしまう可能性があります。
多頭飼いのご家庭で、同居猫にも攻撃をするようならば、少し落ち着かせるために必要に応じて距離を離すなどの対応をしてください。
高血圧になる
過剰な甲状腺ホルモンの働きによって、高血圧になることもあります。
高血圧には、原因がわからないのに血圧が上がってしまう「本態性高血圧」となんらかの疾患により高血圧を発症する「二次性高血圧」があり、猫の高血圧の多くは二次性高血圧によるものです。
高血圧になると心臓や腎臓、脳などに影響を及ぼしますが、もっともわかりやすいものが眼の疾患です。
高血圧になると、眼球内部の出血や、網膜剥離、緑内障などが起こることが多くなります。
注意点として、高血圧の原因が必ずしも甲状腺が原因となっているわけではないので、さまざまな側面から検証する必要があります。
脈が乱れる
過剰な甲状腺ホルモンが心筋に与える影響によって、脈が乱れることも見受けられます。
攻撃的な状態や、落ち着きのない状態が続き、高血圧も併発していれば脈の乱れが確認できることもあります。
高血圧の検査などを受ける際には、あわせて脈の乱れも診てもらいましょう。
心筋症の発症
過剰なホルモン分泌で、心臓に負担がかかり過ぎることによって、心臓のポンプ機能が低下して心筋症を発症することがあります。
年齢や遺伝なども関係するため、すべての原因が甲状腺とはいえませんが、放置するとより症状が悪化してしまうため、早期の検査が必要です。
猫が甲状腺機能亢進症になる原因は?
甲状腺機能亢進症の原因にはさまざまなものがあり、加齢や食事、環境や遺伝などが複合的に関係しているといわれています。
おもな原因を解説いたします。
甲状腺の過形成
過形成とは組織の細胞が一定以上に増殖することをいい、甲状腺機能亢進症の原因となる甲状腺ホルモンの過剰分泌を引き起こします。
猫の甲状腺機能亢進症の多くはこの過形成が原因といわれており、すべてが明らかになっているわけではありませんが、年齢、食事、環境などが関係しているといわれています。
甲状腺・下垂体の腫瘍
甲状腺や下垂体にできる腫瘍も、甲状腺機能亢進症の原因の1つといわれています。
猫の甲状腺腫瘍の多くは良性ですが、良性の腫瘍であっても甲状腺ホルモンが過剰に作られることがあります。
下垂体とは、頭蓋骨の中で脳の下部にぶら下がっている内分泌器官で、前葉と後葉の2つで形成されており、ホルモン分泌の調節をおこないます。
下垂体に腫瘍ができると、この調節機能がうまく働かなくなり、ホルモンの過剰分泌につながります。
猫の甲状腺機能亢進症の治療法
甲状腺機能亢進症と診断された場合に選択される治療についてご紹介します。
投薬
甲状腺機能亢進症と診断された場合に、最初に選択される治療で甲状腺ホルモンを過剰に作らせないための抗甲状腺薬を用いて治療を進めます。
甲状腺ホルモンの過剰分泌を投薬により抑えることができますが、あくまで過剰な生成の抑制をおこなう薬であり、効果を維持するために生涯にわたって飲み続けなければなりません。
また、副作用を起こし嘔吐や食欲不振がみられることもあり、投薬の際には定期的に血液検査を実施して、副作用の有無や効果の確認をおこない、投与量を調整していきます。
甲状腺を切除
甲状腺機能亢進症になったら、必ずしも手術をするというわけではなく、内科的治療で効果が認められない場合や、根治的治療を望む場合、まだ年齢的に若いなどのケースで外科的手術により甲状腺を切除します。
また、片方の甲状腺だけが重度に肥大しているケースでも、手術が推奨されています。
残った甲状腺が正常に機能していれば、術後に甲状腺ホルモンを補うための投薬の必要もありません。
両方の甲状腺を切除すると、多くの場合は甲状腺機能亢進症の内科的治療が必要なくなりますが、甲状腺ホルモンの分泌がなくなってしまうため、術後は生涯にわたり甲状腺ホルモンの投与が必須となります。
また、根治を目指す治療である反面、手術は全身麻酔でおこなわれるため、高齢の猫やほかに疾患を抱えている場合には、リスクを慎重に検討する必要があります。
食事療法
甲状腺ホルモンを生成するために必要なヨウ素を制限した、ヨウ素制限食を使用した食事療法も治療の1つです。
反応がよければ、内服液の服用が必要なくなることがあります。
ただし、猫がヨウ素制限食をしっかりと食べてくれなければならず、食事療法を開始するとヨウ素制限食と水以外口にしてはならないなど、少しハードルの高いものになっています。
甲状腺機能亢進症にならないための予防法はある?
甲状腺機能亢進症は、放置すると命に関わる病気であるため、日頃から注意すべき点にはどのようなことがあるのでしょうか。
効果的な予防法はない
この病気には残念ながら効果的な予防法はありません。
年齢や、食事、飼育環境などが関係しているといわれてはいますが、実際にこの3点が問題なくても、中高齢に差し掛かり甲状腺機能亢進症になる猫はたくさんいます。
そのため、猫は高齢になると甲状腺ホルモンを過剰分泌しやすく、注意が必要となることを予め知っておくことが重要です。
定期的な健康診断を受けて早期発見に努める
効果的な予防法はありませんが、病気を進行させないためには早期の発見が必要です。
早期発見には定期的な健康診断を受け、血液検査を実施しましょう。
甲状腺ホルモンの数値は必ず測定するものではないですが、愛猫が8歳を超えたら測定してもらうことをおすすめします。
甲状腺機能亢進症になると肝臓の数値が高くなることがあるので、基準値を超えている際には甲状腺に問題が起きている可能性があります。
また、日常生活のなかでも以下のような場合には、注意が必要です。
高齢
甲状腺機能亢進症は10歳を超えた猫に多くみられるため、定期的に甲状腺ホルモンの数値を測定しておきましょう。
高齢にもかかわらず元気になった
本来高齢になると、あまり動かない時間が長くなり、寝ていることが多くなるのが一般的です。
高齢になって突然元気になったり、興奮して攻撃的になることが多くなったりするのは正常な状態ではないことが考えられます。
落ち着きがない
いつもソワソワして、発情期を迎えたように、よく鳴くようなことは正常な高齢猫ではあまりみられません。
一見、元気にみえますが、甲状腺機能亢進症の可能性があり、検査を受けてみることをおすすめします。
よく食べるのに痩せる
食欲が旺盛で、しっかりと食事をするのに体重が減少するのはこの病気の大きな特徴です。
飼い主さんが毎日観察をするなかで、しっかりと食事を摂っているのに痩せてきたと感じたら甲状腺に異常が出ている可能性があります。
早期発見のためには、日々の体重管理が重要となるので、ご家庭で定期的に体重を測っておきましょう。
日々体重が減少するようであれば、症状の進行が考えられるため、すぐに病院で甲状腺ホルモンの数値を計測してもらいましょう。
まとめ
猫の甲状腺機能亢進症について解説してまいりました。
この病気は猫が年齢を重ねると、それまで健康だった猫でも発症することがあり、発見が遅れると命に関わるおそれもある病気です。
特に注意したいのが、元気で食欲も旺盛なため、健康にみえてしまう点です。
そのため、動物病院を受診するタイミングが遅くなり症状が進行してしまいます。
早期発見のためにも、中高齢になったら定期的な健康診断を欠かさないことや、ご家庭でも少しの異変を見逃さないことがとても大切で
す。
効果的な予防方法がないので、飼い主さんが、いかにこの病気に関しての知識を持ち、すみやかに対処できるかが大変重要です。
当記事が、そのお役に少しでも立てれば幸いです。