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はじめに
猫は病気や怪我の治療、去勢・避妊手術のために全身麻酔をすることがあります。
- 麻酔からちゃんと目覚める?
- 麻酔に身体が耐えられる?
- 副作用があるのでは?
小さい体で全身麻酔をするのは、不安になる飼い主さんも多いです。
今回は猫の全身麻酔について、全身麻酔を投与する方法や危険度を紹介します。
起こりうる副作用や異常があった時の対処法も解説しているので、これから全身麻酔の予定がある方はぜひ参考にしてください。
猫の全身麻酔とは?
猫の全身麻酔は中枢神経の機能を抑制するための薬を投与し、意識や痛みなどの感覚を失わせます。
中枢神経の機能を抑制させると起こる作用 |
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適切に全身麻酔が施されると、意識のない間に痛みや不快感を取り除いた状態で処置することができます。
肉体的・精神的な負担を軽減できるので、愛猫が安全に適切な治療を受けることができて安心です。
ほとんどの場合はバランス麻酔という、個々に適した鎮痛剤と麻酔薬で組み合わされて作られています。
よく麻酔は危険だと言われますが、合併症が起こるリスクは1%未満ですし、健康的な猫でしたら麻酔で問題が起きる可能性はかなり少ないです。
全身麻酔を使って治療をするケース |
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全身麻酔は、大きな手術を行う時や相当な痛みが出る治療を行うときなどに使用されることが多いです。
また、身体の検査の1つであるMRIを使う場合は音がうるさいため、人でも耳栓をするくらいなので猫は恐怖で暴れることも考えられます。
猫に音がしてもじっとしていてというのは不可能なので、その場合は全身麻酔でストレスなく検査ができるようにします。
また、軽度の治療でも動いたら危険と判断された場合は全身麻酔を使うこともありますが、痛みの有無ではなくじっとさせるのが目的です。
意識や痛みの感覚を失う
猫も人と同じように全身麻酔をすると短時間意識を失い、痛みの感覚も無くなります。
手術や痛みが強く出る施術をする時に、意識のない間に痛みや恐怖のストレスなく治療をするために全身麻酔を使用することが多いです。
他にも、暴れてしまって施術ができない時に危険のない状態で処置をするために、意識を無くして安全治療をする目的もあります。
手術や歯科治療等の痛みを取り除ける
手術や歯科治療をする時は、かなりの痛みが出るため全身麻酔で痛みを取り除きます。
人でも身体にメスを入れたり、歯を削られる痛みは耐えられません。
もしも痛みがあるまま手術や治療をした場合、痛みによる失神や痛みで身体が大きく反応して他の場所まで傷つけてしまうなどの危険があります。
愛猫がより安全に治療をするためにも、全身麻酔で痛みを取り除くのは大事なことです。
全身麻酔の方法は2種類
猫に全身麻酔を使う方法は吸入麻酔と注射麻酔の2種類があります。
それぞれの麻酔のメリット・デメリットを紹介するのでチェックしてください。
これらの麻酔薬は、単体での使用だけではなく安全面を考慮し組み合わせて使用されます。
吸入麻酔
吸入麻酔とは、肺胞から麻酔性のガスを吸わせて全身に麻酔をかける方法です。
主に柔らかい気管チューブを介して投与しますが、気道確保が難しい手術の場合は顔専用マスクで覆って投与することもあります。
猫は気道確保やマスクを嫌がってしまい上手く着けられない可能性があるので、その場合は短時間型の注射麻酔を使用してから吸入麻酔に切り替えます。
吸入麻酔のメリット
- 麻酔の濃度を調節可能
- 麻酔の深度・時間の調節可能
- 覚醒が早い
- 安全性が高い
- 肝臓・腎臓への負担がない
吸入麻酔は、呼吸とともに吸収・排出が繰り返されるため、麻酔の濃度をその都度調節し、コントロールできます。
手術中・治療中の猫の様子を見ながら専門の獣医が調節してくれるので、必要以上の麻酔量を吸入する危険を防げます。
呼吸で薬剤を吐きだせば5〜15分程度で麻酔から覚醒するので、他の方法より早く安全性が高いところがメリットです。
最近の病院では、短時間の手術でも吸入麻酔を使うことが多いです。
臓器毒性や細胞毒性も微弱なため、処置を受ける猫にも施術者も安全に使えます。
吸入麻酔のデメリット
- 専用の麻酔装置が必要
- 麻酔薬の価格が高価
- 排気管理が必要
吸入麻酔は、気管から常に薬剤を投与するため専用の麻酔装置が必要です。
動物病院によっては麻酔装置を置いていないところもあるので、手術をする時に違う病院に紹介される可能性もあります。
安全性も高いですが、価格も高いため費用は注射麻酔のみよりも高くなることが多いです。
注射麻酔
注射麻酔とは、一定の量を注射して一定時間麻酔をかける方法です。
麻酔が浅くなったら、その都度追加で注射をして調整します。
麻酔量には基準値が設定されていますが、麻酔の効き具合は個体差があります。
注射麻酔のメリット
- どこでも使える
- 麻酔薬の価格が安価
- 鎮静効果が期待できる
注射麻酔は、装置などを必要としないため場所を選ばず、専門の獣医がいればどこでも投与できます。
吸入麻酔をする前に使われることも多く、まずは鎮静剤や麻酔薬を注射で少量投与してから切り替えることが多いです。
マスクや気管挿管を嫌がって暴れてしまう猫にも、比較的に危険が少なく使えます。
注射麻酔のデメリット
- 1回の投与で効果が得られる時間が決まっている
- 時間と量の細かい調整ができない
- 施術途中で目覚める可能性がある
- 覚醒するまでに時間がかかる
注射麻酔のデメリットは、微調整ができないところです。
基準の量を投与しても、麻酔が効かない子もいれば効き過ぎてしまう子もいます。
注射で麻酔薬を1回投与すると一定の時間麻酔が効きますが、個体差があるため麻酔が効きにくい子だと施術途中で目覚めてしまう可能性もあります。
また、麻酔が効き過ぎてしまっても呼吸が止まってしまう可能性があるため危険性も高いです。
一度麻酔薬を注入してしまうと、多過ぎても後から余分な分を取り出すことはできません。
目覚めたからといって追加で足しても効き過ぎてしまう可能性があるため、判断が難しいです。
麻酔を受ける前に必要検査
猫が全身麻酔を受けるにはリスクがあるため、身体の状態が安全に全身麻酔が受けられる状態なのか判断するために、事前にいくつかの検査が必要です。
身体の隅々まで検査し、結果をもとに必要事項を決めていきます。
- 必要な治療
- 当日に使う輸液・投薬
- 使用する麻酔薬・鎮痛薬
事前に受ける検査は、上記の内容を決定するための判断材料として大事な過程です。
検査内容は病院によって異なるため、獣医師の指示に従いましょう。
体重測定
体重の測定では肥満度や痩せ過ぎなどのチェックをします。
また、体重によって麻酔量も変わるので体重測定は必須です。
ほとんどの動物病院では、診察台で体重が測れるようになっています。
血液検査
栄養状態や血糖値、肝臓や腎臓の機能や電解質バランス、貧血がないか等の確認のために血液検査が必要です。
麻酔を受ける時には様々な薬剤を使用するため、肝臓で代謝ができるか・腎臓で排泄ができるのか数値を見て判断します。
肝臓や腎臓の数値に異常や貧血がある場合は全身麻酔を受けるリスクが高いため、手術を延期して別の治療を優先させることもあります。
尿検査
尿検査では、腎臓や膀胱に異常がないかを確認します。
腎臓は全身麻酔などで使う薬剤の排泄に関わる大事な臓器です。
血液検査でひっかからなくても、尿検査で腎臓の異常が発見される可能性もあります。
血圧
血圧が異常値ではないかの確認をする検査です。
全身麻酔中は、様々な要因で血圧が低下・上昇をすることがあります。
特に血圧が低ければ低いほど術後の死亡率や臓器障害発生率が上がるため、全身麻酔中は血圧管理が特に重要です。
もともと低血圧の猫の場合、より管理体制をしっかりする必要があります。
心電図
心電図の検査をする主な目的は、不整脈などの心臓の異常を見つけることです。
検査方法は、P波・QRS波・T波と言われる3つの波形を観察します。
P波は心臓の右心房から電気刺激によって発生し、心房から心室へ伝わることでQRS波を発生させますが、不整脈など心臓に異常がある場合には波形に異常が出ます。
問題のない軽度の不整脈なのか、抗不整脈の薬で乗り越えられるか、命に関わる重篤な不整脈かを判断するために必ず必要な検査です。
胸部・腹部の検査
心臓や肺、お腹の臓器に異常がないかを確認する検査です。
全身麻酔中は、心臓での循環や肺での呼吸が停止する可能性があるので、体が耐えられる状態なのかを判断します。
麻酔薬によっては心拍や血圧を下げたり、呼吸を止める効果があるものもあるため、安全に全身麻酔を受けるためには必要不可欠な検査です。
歯茎の状態の確認
歯の手術や治療を全身麻酔を使って行う場合は、レントゲンなどの機械を使い目視では確認できない異常や正確な歯や歯茎の状態を検査します。
検査の結果次第でどのような施術を行うか、日程はいつにするかの調整をして、治療計画を決めます。
全身麻酔は危険度はどのくらい?
健康的な猫の場合、全身麻酔を使用して亡くなる確率は0.11%です。
基礎疾患がある猫や老猫の場合は、もう少し確率は上がります。
しかし、猫の健康状態によりますが、病気のまま治療せずに悪化するリスクを考えると、全身麻酔を使用して治療した方が良いと考える獣医が多いです。
麻酔による合併症が起こるリスクは1%未満
猫が全身麻酔をした際に、合併症が起こるリスクは1%未満です。
麻酔は危険だと言われることが多いですが、実際は他の処置の中でもリスクが低いほうに入ります。
健康体の猫であれば、全身麻酔が原因で大きな問題に繋がる可能性は限りなく低いです。
短時間でも麻酔薬の使用には副作用のリスクがある
全身麻酔は短時間の使用でも、副作用が起きる可能性が0.17%程あります。
可能性としては低いですが、どんなに少量の使用でも副作用が出るため、手術が無事に成功しても2〜3日の間は注意深く愛猫を観察してあげましょう。
短時間の麻酔でも起こりうる副作用を紹介するので、もしも愛猫に起こった場合は早急に動物病院に連絡し早急に連れて行ってください。
アナフィラキシーショック
猫が全身麻酔後にアナフィラキシーショックになる時は、麻酔薬にアレルギーを持っていたことが考えられます。
アナフィラキシーショックの症状 |
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アレルゲン物質が体内に入ると、アレルギー反応が起こりますが、血圧低下や意識消失などの重篤な症状をアナフィラキシーショックと呼びます。
命の危険もあるため、アナフィラキシーショックの症状が見られる場合は、早急に動物病院で処置してもらってください。
臓器系の障害
猫は全身麻酔を受けた時に、腎不全や肝不全などの障害が出ることがあります。
手術中は血圧が低下することが多く、血圧が低下すると腎機能に影響を与えます。
腎臓や肝臓は麻酔薬を代謝・排泄をする役割があるため、全身麻酔をする時の負担も多いです。
腎臓や肝臓の異常は事前検査で発見できるため、障害が残らないように細心の注意を払いましょう。
視覚障害
猫は全身麻酔を受けた時に、視覚障害が現れる可能性があります。
中には、失明してしまった例もありますがごく稀です。
発作
元々てんかんを持っている猫は、全身麻酔をすることで発作が悪化する場合があります。
また、今まで発作を起こしたことがなくても発生する可能性があるので注意が必要です。
てんかんの発作が出る可能性がある猫の全身麻酔は、導入する麻酔に抗てんかん作用のある超短時間型の薬を使用します。
今まで発作が出たことのない猫の場合は、予測することは不可能です。
麻酔による重大な副作用が起こる場合
重大な副作用が出るのは術後麻酔から目覚めるまでの数時間以内が多いので、その間は基本的に病院に留まります。
その後担当の獣医から副作用の説明を受け、自宅に帰り安静に過ごしてください。
麻酔から目が覚める数時間の間に起こることが多い
手術の内容にもよりますが、全身麻酔の重大な副作用は麻酔から覚醒後3時間以内に起こることが多いです。
手術が終わったら回復室・集中治療室に移動します。
補助なしで起立や歩行ができるまでは、数分おきに意識・呼吸状態・粘膜色・心拍数・体温などの状態を監視します。
手術後数時間は病院に滞在する
もしも副作用が出てしまった時に、すぐに対応できるように麻酔から覚醒した後数時間は病院に滞在します。
帰宅する際は、病院から注意事項の説明があるのでしっかり心配なことは確認してください。
また、お薬を処方された場合は、必ず時間と回数通りに飲ませましょう。
帰宅後に病院に連れて行った方が良い症状
猫は全身麻酔を含む全ての治療が終われば帰宅できますが、帰宅後に危険な症状が出る可能性があります。
問題なく帰宅した場合でも2〜3日の間は、注意深く様子を観察してください。
過度に痛みや苦痛を感じている
猫も全身麻酔をして手術や処置を受けると普段より体力を使うため、帰宅後は元気がなかったり、大人しくなることが多いです。
しかし、お腹を守るように丸まっていたり、触られるのを極度に嫌がる様子が見られたら、過度に痛みを感じている可能性があります。
猫は痛みがあったり身体に不調を感じていても、勘付かれないように普段通りを装いますが全く動きたがらないなら危険です。
痛みがひどいとぐっすり眠ることもできないので、様子がおかしいと感じたらすぐに動物病院へ連れて行きましょう。
2日程度たっても元気や食欲がない
猫は全身麻酔で手術や処置をしても、少しずつ回復していきます。
しかし、2日ほどたっても元気がなく、ご飯を全然食べない時は身体に不調がある状態です。
精神的なストレスが原因の場合もありますが、放っておくと重篤な症状が出る可能性もあるので、元気や食欲がない時はすぐに動物病院へ連れて行きましょう。
手術後24時間以上たっても血が滲んでいる
手術後帰宅し24時間以上経っても、傷口から血が滲んでいる時は傷口がちゃんと塞がっていない可能性があります。
また、猫が傷口を舐めてしまって開いたり、化膿してしまっていることも考えられるので、その場合は再手術が必要です。
もう一度全身麻酔をかけ、切開と縫合をしなければいけません。
もしも24時間経っても傷口から血が出ているようなら、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。
過度な腫れや赤みがある
手術や処置後は多少の腫れや赤みがありますが、退院する前の状態よりも腫れや赤みがひどくなっている時は注意が必要です。
猫が傷口を舐めてしまって、傷跡が悪化する場合もあるので気を付けましょう。
術後2〜3日は患部がピークに腫れますが、だんだんと引いていき1〜2週間後にはだいぶ落ち着きます。
時間が経っても過度に腫れていたり、どんどん腫れや赤みがひどくなっている場合はすぐに動物病院へ連れて行きましょう。
においや分泌物などがある
術後幹部が臭い・分泌物が出ている場合は、化膿している可能性があります。
化膿した場合は抗生物質の投与をしないと悪化してしまうので、すぐに動物病院へ連れて行きましょう。
まとめ
今回は猫が全身麻酔をする時の方法や注意点、副作用について解説しました。
麻酔はもし目覚めなかったらと不安になりますが、全身麻酔で死亡する確率は0.11%とかなり低いです。
全身麻酔が怖いからという理由で、原因になる治療を断る方が猫にとってリスクが高くなる可能性もあります。
この記事を読んで全身麻酔のことを理解した上で、愛猫に最善の治療を受けさせましょう。