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はじめに
猫の平均寿命が長くなっていることで、大切な愛猫と長く暮らせることは大変喜ばしいことですが、長寿化にともない色々な病気にかかる猫が増えています。
そのなかでもがんの一種であるリンパ腫は、猫が罹患するがんの中でもっとも多くなっている腫瘍です。
しかし、リンパ腫といわれてもどのような病気であるかわからない方もいるのではないでしょうか。
ご自身の愛猫が長く健康的に暮らしていけるよう、リンパ種とはどのような症状を引きおこす病気なのか、種類や、治療法も含めて、猫と暮らしている飼い主さんならば知っておきたいリンパ腫について詳しく解説いたします。
猫のリンパ腫とは?
リンパ腫という言葉はよく耳にすることがありますが、いったいどのような病気なのでしょう。
リンパ球が悪性腫瘍化したもの
血液の中にある白血球の1つにリンパ球があります。リンパ球は免疫反応に関与しており、体内へのウイルスや細菌の侵入をブロックする役割を果たしています。
リンパ腫とはこのリンパ球が悪性腫瘍化したもので、血液のがんの一種です。
悪性リンパ腫は、猫の免疫系を攻撃するため、症状が進行すると健康に大きな影響を及ぼします。予後があまり良くないこともあり、発見が遅れてステージが進んでしまうと、治療の効果を得ることが難しくなってしまいます。
そのため、少しでも早いタイミングで発見することが望ましく、愛猫の健康チェックはとても重要になります。
猫で最も多くみられる腫瘍のひとつ
リンパ腫は猫の悪性腫瘍のなかでも多くみられる腫瘍のひとつで、猫の全腫瘍のうちの1/3はリンパ系や骨髄系を原因とした造血系腫瘍ですが、そのうちの、5~9割を占めるのがリンパ腫となっています。
これは猫の悪性腫瘍のなかでも特に大きな割合となっています。
どの臓器でも発生する可能性がある
リンパ球は体の至るところに存在しているので、リンパ腫も全身のさまざまな部位に発生し、発生する部位により症状も異なることがわかっており、それぞれの機能を低下させてしまいます。
また、発生する部位により縦隔型、消化器型、鼻腔内などに分類されます。
高齢の猫に多くみられますが、猫白血病ウイルスに感染している場合には1〜3歳の若い猫の発症が多くなります。
リンパ腫の種類と症状は?
リンパ腫は発生する部位により分類される種類や症状が異なります。
ここでは代表的な種類と症状について解説いたします。
縦隔型
縦隔型は猫白血病ウイルスを主な原因としており、高齢猫よりも若い猫の方が発生率が高くなります。
現在では飼い猫が完全室内飼いで予防がしっかりとおこなわれていれば、猫白血病への感染はほとんどありませんが、外で野良猫との接触した可能性がある猫や、保護猫などは陽性と診断されることがあります。
猫白血病に感染した猫のおもな症状として、この縦隔型のリンパ腫があるため、若くしてリンパ腫と診断されたときには同時に猫白血病にかかっているおそれがあります。
そのため、猫白血病を原因とした縦隔型のリンパ腫になってしまったご家庭で、猫の多頭飼いをしている場合には、感染の恐れがあるため隔離してください。
胸にできるリンパ腫
縦隔型リンパ腫は、胸の中のリンパ組織に発生する腫瘍で、胸腺に腫瘍細胞が増殖する場合や、縦隔という肺、胸椎、肋骨に囲まれた空間に発生するリンパ腫を指しています。
胸腺に発生することから胸腺型とも呼ばれることがあります。
呼吸困難・吐出などの症状
縦隔型リンパ腫になると、リンパ腫に水が溜まる胸水を発症します。胸水が溜まると呼吸が苦しくなり、咳や嘔吐などの症状があらわれ、体力の低下や、食欲の低下による体重減少などがみられるようになります。
さらに進行すると、呼吸困難になり、胸水が胸を圧迫するため胸を押さえつけるような体勢を取らなくなり、触れられることも嫌がるようになります。
消化器型
消化器型は、腸などの消化器で発生するリンパ腫で、年齢問わず発症しますが、おもに高齢の猫に多くみられます。
どこにでも発生する可能性のあるリンパ腫のなかでも、もっとも多いのがこの消化器型リンパ腫です。
縦隔型のように、猫白血病との関連性はなく、原因はまだわかっていませんが、遺伝的・環境的要因があるのではないかといわれています。
ワクチンなどによる予防方法もないため、早期発見、早期治療が何より大切です。
一般的な消化器症状や風邪の症状と似ているため、食欲不振や体重減少などの症状だけで判断しづらく発見が遅れることがあるため注意が必要です。
お腹にできるリンパ腫
消化器型はその名のとおり、胃腸などの消化器系に腫瘍ができるリンパ腫です。お腹にしこりができることで発見されることもありますが、ほとんどが見た目では判断しづらい点も消化器型リンパ腫の特徴です。
食欲減退・嘔吐・下痢などの症状
発症すると、食欲の減退や嘔吐、下痢などの消化器系のトラブルがみられるようになります。ただし初期の段階でこのような症状がみられたとしても、風邪や消化不良などと判別が難しく、異変があっても見落としてしまう可能性があります。
そのまま症状が悪化すると、腫瘍が正常な機能を邪魔して、腸閉塞や腸管穿孔による腹膜炎を起こしてしまうことがあります。
症状が進行すると予後があまりよくない病気でもあり、早期発見がとても大切な病気であるため、一般的な治療をおこなっても消化器系のトラブルが続くようであれば、消化器型リンパ腫を疑い、すぐに動物病院を受診しましょう。
鼻腔内の場合
鼻腔内リンパ腫は、鼻腔内の腫瘍のなかで最も多く、中高齢での発生が多いほかの腫瘍に比べ、鼻腔内リンパ腫は若い猫にも多く認められています。
初期では、鼻水やくしゃみなどの症状で、風邪やウイルス性鼻炎などと変わらないため鼻腔内リンパ腫との判別が困難で、外からは発見しづらいため、目に見える症状が出たときには進行していることもあります。
原因ははっきりとわかっておらず、ウイルス感染との関連性も認められていません。
顔面の変形などの症状
初期の症状は風邪やウイルス性の鼻炎などと変わりなく、鼻水やくしゃみをするくらいですが、徐々に鼻血が混ざるようになって、においがわからなくなり食欲不振になることが多くあります。
外見も鼻筋のあたりに腫れがみられ、目の位置が変わったように見えてきます。
ほかにも、腫瘍が鼻腔内をふさいでいるために呼吸が苦しそうな仕草をしたり、顔のあたりが気になって床や家具などに顔を擦り付けたりすることがあります。
まずは、鼻血や顔面の変形などの明らかに鼻炎とは違う様子がみられるようになったら、病院を受診しましょう。
リンパ腫にかかりやすい猫は?
猫の腫瘍のなかでも、多くみられるリンパ腫ですが、かかりやすい猫の特徴があります。代表的なものをみていきましょう。
10歳前後の猫からよく見られる
どの病気でもそうであるように、リンパ腫も高齢になるほど発症しやすいといわれています。そのため10歳前後からの猫は若い猫に比べてリンパ腫にかかりやすいといえるでしょう。
老化により体力や免疫が低下し、傷ついた箇所の修復する能力も衰え、時間もかかるようになります。
高齢の猫の方が、若い猫に比べて異常を起こした箇所の修復が遅れてしまうことにより、リンパ腫の発生するリスクが高くなっていると考えられています。
猫白血病ウイルスに感染している猫
猫白血病ウイルスは白血病などを引き起こすウイルスですが、必ずしも白血病になるわけではなく、免疫力の低下などによりリンパ腫をはじめとするほかの病気を引き起こすとされています。
猫白血病は猫同士でしか感染しませんが、猫から猫への感染原因は感染した猫の唾液や尿、糞便などに含まれるウイルスが、口や鼻から入ってしまうことで感染します。
外で感染猫と接触した猫が、喧嘩をしたり、じゃれ合ったりすることで感染するケースや、自分の体に感染した猫の唾液が付着した状態で、毛づくろいをして感染するケースなどさまざまです。
予防法として、ワクチン接種も有効ですが、外での接触を避けるために完全室内飼育が望ましいとされています。
猫免疫不全ウイルスに感染している猫
猫免疫不全ウイルスとは別名で「猫エイズ」とも言われていますが、おもな症状として免疫力が徐々に低下してリンパ節の腫れや口内炎などさまざまな症状を発症し、末期になるとエイズ(後天性免疫不全症候群)を発症し、死に至る病気です。
猫免疫不全ウイルスに感染すると、数週間は発熱やリンパ節の腫れなどを起こすことがありますが、その後すぐに発症することはなく、数年から10年くらいの潜伏期間があります。
その後、全身のリンパ節の腫れや、リンパ腫などの悪性腫瘍、急激な体重減少などを起こします。
発症した際に体内の免疫機能が弱ってしまうことで、リンパ腫にかかりやすくなってしまいます。
主な感染原因は、猫白血病ウイルスと同じように感染猫との接触で、喧嘩などの際の唾液による感染が確認されており、予防法として、完全室内飼育の徹底が推奨されています。
シャムネコはリンパ腫にかかりやすいといわれている
原因はわかっていませんが、シャムネコはほかの猫に比べ、悪性リンパ腫にかかりやすいといわれており、特に縦隔型のリンパ腫を発症することが多いといわれています。
リンパ腫の治療方法
リンパ腫に特定できるような特徴がないため、正しい診断のもとに治療を開始しなければなりません。
リンパ腫の診断方法は、針生検をおこないます。
針生検とは腫瘍が疑われる部位に注射針を刺し、細胞をほんの少し採取して検査をおこなう方法です。ほとんどが針生検で診断確定しますが、どうしても判断がつかない場合には、組織を一部採取して病理組織検査を実施します。
あわせて、血液検査やレントゲン、必要に応じてウイルス検査をおこなうことが一般的です。
リンパ腫と診断されたら治療方針を決めていかなければなりません。
リンパ腫は完治が難しい病気のため、治療の目的は完治ではなく延命となります。症状を抑えてできるだけ普段と変わらない生活が送れるようにする「寛解(かんかい)」を目指すのか、痛み止めなどによる緩和的治療に進むのか大切な愛猫のために、しっかりと検討する必要があります。
寛解といっても永久的なものではなく効果が認められた場合、平均余命は6ヵ月〜9ヵ月となっています。もちろん個体差があり平均余命よりも長い子もいれば短い子もいますが、大切な愛猫と少しでも長く過ごしたい飼い主さんは寛解にむけた積極的な治療を選択することが多いのではないでしょうか。
愛猫を苦しませずに、正しい治療を受けるための治療方法について解説いたします。
抗がん剤治療
猫のリンパ腫の治療方法としては抗がん剤を用いた化学療法が一般的です。抗がん剤への反応がよいことがわかっており、約60%の症例で効果が認められています。
ただし、期待される効果は、年齢やステージによって同じ治療をおこなっても反応が違うことや、猫白血病にかかっている猫は効果が出にくいことはあらかじめ理解しておきましょう。
複数を組み合わせて使用する多剤併用療法が一般的
リンパ腫には抗がん剤が効果的な治療法といわれていますが、単剤で与えると腫瘍細胞が耐性を持ちやすくなることから、複数の抗がん剤を組み合わせた多剤併用療法をおこないます。
薬の種類や量、投与ペースなどの治療計画に合わせて進めていきます。一般的には1週ごとに異なる薬を投与して、休薬期間を経て同じ治療を繰り返します。
抗がん剤治療の副作用は?
抗がん剤治療といえば、副作用が気になります。副作用には下痢や嘔吐、免疫抑制、脱毛、倦怠感、ほかにもさまざまな症状が出ることがあり、多剤併用療法により、より強く出る傾向があります。
副作用には個体差があり、それほど出ない子もいますが、あまりに強い副作用が出るときは治療方針を再考するなどして、大切な猫を苦しめるようなことは避けなければなりません。
放射線療法
放射線療法も治療の選択肢としてあり、局所的な腫瘍に対して効果が高いといわれており、そのなかでも特に鼻腔内リンパ腫に効果的で、選択肢の一つとして考えられています。
放射線治療単独でおこなう以外にも、抗がん剤との併用で進めていくこともあります。
設備の整った病院でしかできない
放射線療法は設備の整った病院でなければおこなうことができないため、もし放射線療法を希望する場合には、かかりつけの病院などに相談のうえ、実施している病院を紹介してもらうなどする必要があります。
外科的手術を行うことはあまりない
リンパ腫は全身性疾患のため、化学療法での治療が中心となり、外科的手術をおこなうことはあまりありません。
ただし、消化管リンパ腫などの特定の腫瘍では、外科的な切除手術を実施することがありますが、全体的に見ると外科的手術はリンパ腫の治療としてはまれです。
まとめ
猫のリンパ腫についてご紹介しました。
リンパ腫は、血液のがんの1種であり、体内のあらゆるところで発生する可能性があり、予防も難しい猫にとってやっかいな病気です。
健康な猫でも高齢になると、発症することがあり、完治が難しいこともリンパ腫の特徴です。
ご紹介したように、抗がん剤の効果は高くなっていますが、それでも予後はあまりよくありません。ただし、実際にリンパ腫を患った猫が、懸命の治療により余命を伸ばしたこともたくさん報告されているので、愛猫がリンパ腫になってもあきらめる必要はありません。
大切なことは、治療方法は1つではないので、飼い主さんが納得した方法を選択することと、猫が苦しみ続けないことを考えてあげることではないでしょうか。
そのためにも定期的な健康診断や毎日の健康チェックによる早期発見、食生活も含めた健康サポートが重要です。
また、リンパ腫がどういう病気で、どのような症状があらわれるものなのか飼い主さんが正しく理解すれば、万が一愛猫がリンパ腫にかかった場合でも、獣医師と相談しながら寛解を目指すことができます。
猫によくみられるリンパ腫に関して、当記事を参考に正しい知識を持っていただけたら幸いです。