健康

【獣医師監修】猫に多くみられるがんは?治療法やがんの原因について詳しく解説

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はじめに

医学の進歩と、飼育環境の向上により、猫の平均寿命は長くなっています。

現在の猫の平均寿命は15.62歳で、この10年で1歳以上も平均寿命が長くなっています。大切な家族である猫と長く暮らせることは喜ばしいことですが、長く生きるということは病気のリスクも高くなる傾向にあるといえるでしょう。

そのなかでも猫の死因で常に上位にあげられるのが「がん」です。

一言でがんといってもいろいろな種類があり、症状も治療法も変わってきます。

すでに猫を飼っている飼い主さんにとって、いずれ直面する可能性のある問題ですし、これから猫を飼おうとお考えの方も、今後長いあいだ一緒に暮らす猫に関して、正しい知識を身に付けておくことはとても重要なことです。

今回は、猫のがんなかでも多く見られるがんに焦点をあてて、治療法や原因を詳しく解説いたしますので、大切な命を守るためにも最後までご覧ください。

猫のがんとは?

がんになるという言葉はよく聞きますが、どのような仕組みでがんになるのかは意外に知らない方も多いのではないでしょうか。

がんの仕組みは猫も人間も大きく変わることはありません。

猫がどのような経緯でがんになってしまうのか見ていきましょう。

正常な細胞が変異することで起こる

すべての生き物は細胞からできており、細胞分裂によって、新旧の細胞が繰り返し入れ替わる新陳代謝が起きています。

本来、細胞分裂は元の遺伝子をコピーするように分裂していきますが、その際に突然変異の遺伝子が発生することがあります。

通常、このような突然変異の遺伝子は、体内の免疫細胞によってほとんどのものが排除されますが、免疫システムが機能せず、淘汰されなかったものが、生き残り、分裂と増殖を繰り返し、かたまりを形成すると腫瘍になってしまいます。

腫瘍には良性と悪性がある

突然変異の遺伝子が腫瘍を作り出しても、すべての腫瘍ががんというわけではありません。

腫瘍には良性と悪性があり、悪性の腫瘍がいわゆる「がん」です。

良性と悪性の違いはいくつかありますが、おもに成長スピード、形、転移の有無がそれぞれ異なります。

良性の場合には、成長が遅くその場で大きくなり、周りの組織を圧迫しますが、ほかの場所に転移することはありません。

反対に悪性の場合には、増殖するスピードが速く、周囲の組織を巻き込みながら広がっていき、ほかの部位に転移していきます。

悪性腫瘍が体内に増えていくと、正常な細胞にいくはずの栄養が供給されなくなります。その結果、体力の消耗や、衰弱化が進行し、体重が減少するなどの症状があらわれます。

良性腫瘍は、手術により完全に切除できれば、再発することはほとんどありませんが、悪性腫瘍は手術や投薬治療をおこなっても、再発の可能性があり、生命に大きく影響します。

猫のがんの治療方法は?

猫のがん治療はおもに3つあります。

手術によりがんを取り除く外科治療、抗がん剤を用いた化学療法、放射線の照射によりがんの増殖を防ぐ放射線治療の3つがあり、1つの治療法を単独で実施するケース以外に、症状や進行度合いによっては、これらの治療法を組み合わせることもあります。

どの治療方法を選択するかは、がんの種類や進行度、がんの場所や、猫の体力的な問題などを考慮して決めていくことが多いですが、飼い主さんがどのような治療を選択するかも治療方法を決めるにあたってとても重要になってきます。

外科治療

がんがまだ別の場所に転移しておらず、切除可能な大きさや状態であった場合には外科手術によってきれいに取り除くことができれば、完治が期待できる治療法です。

ただし、すでにほかの場所に転移していたり、腫瘍が大きくなりすぎたりしている場合や、リンパ腫のように全身に広がってしまうがんの場合には、切除ができないため、別の治療が選択されます。

また、全身麻酔が必要であること、メスを入れることによる身体的負担などが考えられるため、体力に不安がある場合には手術に耐えることができるのかよく検討する必要があります。

化学療法

化学療法は抗がん剤を投与して、がん細胞の分裂を抑える治療法です。局所的な腫瘍を切除する外科治療に対し、化学療法は、内服や注射によって全身に入り込み、体内に潜んでいるがんを攻撃するため、リンパ腫など全身に広がってしまったがんや、外科療法で取りきれなかったがんに用いられます。

治療に際して、全身麻酔は必要ありませんが、だるさや吐き気、脱毛などのほかに、白血球や血小板の減少などさまざまな副作用が見られることもあります。

また、連続して化学療法をおこなうことにより、薬物耐性ができてしまい、抗がん剤が効きにくくなってしまうことがあります。

放射線治療

放射線治療とは、放射線をピンポイントで照射して、がん細胞を消滅させることを目指す治療法です。

すでに転移しているがんには適応できませんが、鼻の中など手術が困難な場所で効果を発揮します。

ほかにもがん細胞を小さくするために用いられることもあり、小さくなれば外科手術で対応できるため、外科治療と組み合わせて使用されることもあります。

しかし、正常な細胞にも作用してしまうため、機能不全などの副作用が出る場合があります。

放射線治療をおこなえる場所は少なく、大学病院などの設備の整った病院へ転院しなければなりません。そのため治療費も高額になることが多い傾向があることはおぼえておきましょう。

猫に多くみられるがんは3種類

がんにはさまざまな種類がありますが、猫が特にかかりやすいがんはリンパ腫、扁平上皮がん、乳腺腫瘍の3つです。

1つずつ詳しく解説します。

リンパ腫

血液の中にある白血球の1つにリンパ球があります。リンパ腫とはこのリンパ球が悪性腫瘍化したもので血液のがんの一種です。

発生する場所や特徴などで多様な型に分類される

リンパ球は体のいたるところに存在しているため、リンパ腫も全身のさまざまな部位に発生し、発生する部位により多中心型、縦隔型、消化管型、腎臓型、鼻腔型などに分類されそれぞれの機能を低下させてしまいます。

また、リンパ球の大きさにより分類することができ、大きいリンパ球が多いリンパ腫を大細胞性、小さいリンパ球が多い場合には小細胞性と呼ばれています。

型によって症状や予後が異なる

発生する部位により型の名称が異なりますが、症状もそれぞれ異なります。

多中心型の場合、体中のリンパ節が腫れて大きくなり、縦隔型は呼吸が苦しそうな症状がみられます。

ほかに消化管型は嘔吐や下痢、腎臓型は多飲多尿や血尿、鼻腔型は鼻血や顔の変形などがおもな症状です。

また、大細胞性と小細胞性では予後が異なり、大細胞性の方が予後が悪いことがわかっています。

腸にできる消化管型が最も多い

さまざまな部位に発生するリンパ腫の中でも、腸にできる消化管型が最も多く発生します。

おもに高齢の猫が発症することが多く、一般的な消化管症状や風邪の症状と似ており、下痢や嘔吐、食欲不振や体重減少などだけではリンパ腫と判断しづらく、発見が遅れることがあるため注意が必要です。

治療は抗がん剤治療が基本

リンパ腫は特定の部位に腫瘍ができるものではないため、手術を選択するケースはあまりありません。

基本的には抗がん剤治療を用いた化学療法が一般的です。

期待される抗がん剤の効果は年齢や、リンパ腫のステージにより同じ治療をおこなっても異なります。

発生部位によっては放射線療法や外科手術を行うことも

発生部位により効果があると判断された場合には放射線治療や外科手術をおこなうことがあります。

鼻腔型では放射線治療での効果が認められており、消化管型では、外科手術が選択されるケースもあります。

扁平上皮がん

扁平上皮がんは、皮膚の一番表層の細胞ががん化し増殖する悪性腫瘍です。

扁平上皮細胞に発生するがん

この細胞は扁平上皮細胞と呼ばれており、扁平上皮細胞が存在する場所ならばどこにでも腫瘍が発生します。

環境要因や遺伝的要因がいろいろ絡み合って発症することが多く、紫外線やたばこの煙などが原因となる可能性もあります。

耳や鼻・口腔内などにできやすい

あらゆる場所にできる扁平上皮がんですが、特に耳や鼻、口腔内によく発生します。

耳の先などによくみられますが、皮膚のなかでも被毛の薄い部分によくみられます。

また、口腔内の扁平上皮がんは口の中の腫瘍疾患の60〜70%を占めるほど多くなっています。

歯茎などの粘膜によくみられますが、あごの骨に発生する場合もあります。どちらも進行がとても早く、なかには1ヵ月ほどで広範囲に広がってしまうこともあります。

白系の猫に多くみられる

扁平上皮がんの原因として日光や紫外線が関係しているといわれているため、白い猫や色素の薄い白系の猫に多くみられることがわかっています。

特に、外に出ることの多い白系の猫には注意が必要です。

遠隔部位への転移は比較的少ない

扁平上皮がんは局所浸潤性が高く、遠隔部位の転移が少ないとされていますが、これは転移のスピードが遅いことに関係しており、まったく転移しないわけではありません。特に顔に発生したものは、リンパ節や肺への転移が見られる場合があります。

外科手術で取り切れた場合の予後は良好

外科手術が困難な場合には予後が悪く、生存期間は3ヵ月といわれていますが、しっかりと腫瘍が取り切れた場合には、転移も少ないことから予後が良好で長く生きることが可能なケースも多いので、早期発見が大変重要となります。

乳腺腫瘍

乳腺腫瘍は乳腺にできる腫瘍で、乳がんといった方がわかりやすいかもしれません。

猫の悪性腫瘍のなかで最も多く、特にメス猫にみられる腫瘍です。

乳腺腫瘍はほとんどが悪性腫瘍

腫瘍には良性と悪性があり、良性の場合、きれいに切除できれば健康な生活を取り戻すことができます。

しかし、残念ながら乳腺腫瘍の場合には80%以上が悪性腫瘍であり、高い確率で転移することがわかっています。

そのため、転移する前の早い段階で治療を始めることにより予後が大きく異なるため、早期発見が大変重要となります。

10歳~12歳の高齢の雌猫に多い

乳腺腫瘍は、高齢のメス猫に多く発生することがわかっており、12歳がピークといわれていますが、まれに若い猫やオス猫でも乳腺腫瘍になることがあります。

また、未避妊のメス猫によくみられる腫瘍であることがわかっており、避妊手術を受けることが乳腺腫瘍の予防につながります。なかでも月齢が若いうちに手術を受けることがとても有効だといわれています。

乳腺腫瘍にかかりやすい猫種

シャムやペルシャなどは、ほかの猫に比べて乳腺腫瘍にかかりやすく、なかでもシャム猫はほかの猫に比べ発症リスクが2倍といわれており、遺伝的要因ではないかと考えられています。

治療は外科手術が基本

乳腺腫瘍の治療は外科手術による摘出が基本となります。腫瘍を含めて乳腺をすべて取ることが一般的ですが、すべての乳腺を摘出するのか、腫瘍のある部分だけ摘出するのかは腫瘍の場所や大きさによって判断されます。

すでに転移が認められた際には、手術ができないこともあり、もし手術をおこなった場合でも、術後に化学療法による治療をおこなうことがあります。

猫が癌になる原因として考えられるものは?

猫ががんになる原因は1つではありません。防ぎようのないものから、生活環境によるものまでさまざまな原因があると考えられています。

代表的な原因をみていきましょう。

遺伝

親猫ががんになったことのある猫は、そうでない猫に比べてがんになりやすい体質を受け継いでいる可能性があります。

ただし、遺伝の影響というのは限定的なもので、後天的な要素が大きく関わっているといわれています。

老化

猫ががんになる原因の多くは、加齢による老化が原因と考えられています。

老化が進むことにより、どれほど健康的に過ごしていても、加齢による遺伝子の変異を積み重ねることでがんは発生してしまいます。

免疫力の低下

猫には本来、がん細胞などを撃退する免疫力が備わっています。

しかし、加齢や継続的なストレスなどで免疫力が徐々に弱まり、がん細胞に対する抵抗力が低下するとがんになるリスクが高くなります。

ホルモンバランスの影響

ホルモンバランスの影響でがんになる可能性が高くなる場合があります。

特に乳腺腫瘍はホルモンバランスの影響を大きく受けているといわれ、メス猫の場合には、避妊手術を受けた年齢によって術後のホルモンバランスに影響し、乳腺腫瘍の発生率に大きく関係してきます。

猫白血病ウイルスへの感染

猫白血病ウイルスに感染している猫は、リンパ腫などのがんを引き起こすことがあります。

感染原因は、すでに感染している猫との接触によるものが多いため、外に出て感染している猫と喧嘩などで接触することにより自分も感染してしまうことが多くなっています。

予防法としては、室内飼いを徹底し感染している猫との接触を避けることが有効です。

受動喫煙

たばこの煙には化学物質が大量に含まれており、そのなかに多くの発がん性物質が確認されています。

猫が生活する空間でたばこを吸うことで、猫が受動喫煙により、煙を体内に吸い込んでがんになるリスクが高くなります。

慢性的な炎症

細菌や真菌感染による炎症が長引くことで、マクロファージなどの免疫担当細胞が集まり肉芽腫(にくがしゅ)という腫瘍を形成することがあります。

炎症部位が肉眼で観察できるほど大きく腫れ、痛みをともなうなどの症状がみられるようになります。

まとめ

猫に多くみられるがんについてご紹介しました。

医学の進歩により、猫の平均寿命も長くなっていますが、それにともない加齢などによりがんになってしまう猫も増えているのが現状です。

がんになる要因はさまざまですが、飼い主さんがどれほど猫の健康に注意していてもがんになってしまうことはあります。

しかし、生活環境の見直しや、普段から猫の健康状態をこまめにチェックすることにより、がんの早期発見、早期治療につながります。

早い段階で治療を始めることができれば、万が一がんになってしまったとしてもその後の経過は大きく変わってきます。

愛猫ががんになって苦しまなくても済むように、病気になってから変えるのではなく、大切な猫のためにも健康なうちにできることはしておいてあげたいものです。

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